17日後に交際していることがバレるSS。
ルシスで生まれ育った者ならば絶対に知っている有名な本がある。
それはイオスという星の成り立ちを記した本――いわゆる創星記だ。
小学校の教材としても用いられているその本は小さな子どもにも読みやすいように作られているせいか美しい挿し絵が多く、幼い頃のイグニスも良く勉強と称して就学前から読まされていた。
一般人にとっては神話などただの夢物語にしか過ぎないが、ルシス王家と王家に仕える者達はその創星記神話がただの夢物語ではないと知っている。
六神。
二十四使。
神凪。
指輪の王。
聖石。
そして――厄災。
いずれ王子の側付きとなるイグニスにとっても創星記はただ美しいだけの神話ではなく、全てが紛れもない現実であり、正しい史実だった。
「何故、創星記がここに?」
飛空艇の書庫の奥にひっそりと収まっていた、見慣れた懐かしい背表紙。
思わず手に取ってパラパラとページを捲り、これが本物かどうか確かめてみる。
「……確かに創星記だな」
二ページに渡って荘厳な挿し絵が描かれているページまで辿り着くとイグニスはページを捲る指を止め、壊れ物に触れるような優しい手付きでその絵をそっとなぞる。
創星記の中でも一番好きなページだ。
「――イグニス?」
「! っ……」
急に名前を呼ばれた事に驚いてバサリと床に本が落ちる。
慌てて拾おうと伸ばした手に白くて華奢な手が重なり、思わず顔を上げると、自分の目の前にいる少女とパチリと目が合った。
「ごめんね、驚いた?…本、大丈夫?……あー…、読んでたところ、分からなくなっちゃったね」
「いや、気にしなくて良い。俺がちゃんと持っていなかったのが悪いんだ。読んでいた場所も分かるから安心してくれ」
しょんぼりと肩を落としたティナの頭をぽんぽんと軽く撫でてからイグニスは床に落ちた創星記を拾い、再びページを捲る。
「その本は?」
「俺の世界にあった本だ。さっきこの棚で見つけて、懐かしくて読んでいたところだった」
「そう。……とても綺麗な本ね」
「ああ。ここの挿し絵が昔から好きでな」
先程まで読んでいたページまで捲ってからティナにも見えるように大きく開くと、イグニスは挿し絵の一部に指をさした。
「この絵は神に選ばれた女性が星の力と逆鉾を授かるシーンなんだが」
イグニスの指が指し示す場所は空から舞い降りる偉大な神でもなく、逆鉾を授かる女性でもなく、その脇に小さく描かれている白い羽根を持つ女性だった。
「……この天使、誰かに似ていると思わないか?」
「え?」
ゆるやかなウェーブのかかった柔らかい白金色の髪に、抜けるような真っ白な肌、透き通った紫色の瞳。
「…………もしかして、私?」
「ああ。最初にティナをこの世界で見かけた時は本当に驚いた」
本の中から天使がそのまま抜け出してきたのかと思うぐらいそっくりな容姿だったのだ。
「君は本当はこの挿し絵の天使なんじゃないかと思った。いつか本の中へと帰ってしまうんじゃないか、って。そう考えたら何となくティナから目が離せなくなって。……気が付いたら、いつの間にか君を好きになっていたらしい」
「ふふ、何それ」
「やはり、おかしいか…?」
「ううん。……嬉しい」
照れたようにはにかみながらティナが隣に寄り添ってくる。
羽根のない細い肩をそっと抱き寄せて、イグニスは天使の居なくなった 本を閉じた。
《仲間達に交際がバレるまで、残り14日》
それはイオスという星の成り立ちを記した本――いわゆる創星記だ。
小学校の教材としても用いられているその本は小さな子どもにも読みやすいように作られているせいか美しい挿し絵が多く、幼い頃のイグニスも良く勉強と称して就学前から読まされていた。
一般人にとっては神話などただの夢物語にしか過ぎないが、ルシス王家と王家に仕える者達はその創星記神話がただの夢物語ではないと知っている。
六神。
二十四使。
神凪。
指輪の王。
聖石。
そして――厄災。
いずれ王子の側付きとなるイグニスにとっても創星記はただ美しいだけの神話ではなく、全てが紛れもない現実であり、正しい史実だった。
「何故、創星記がここに?」
飛空艇の書庫の奥にひっそりと収まっていた、見慣れた懐かしい背表紙。
思わず手に取ってパラパラとページを捲り、これが本物かどうか確かめてみる。
「……確かに創星記だな」
二ページに渡って荘厳な挿し絵が描かれているページまで辿り着くとイグニスはページを捲る指を止め、壊れ物に触れるような優しい手付きでその絵をそっとなぞる。
創星記の中でも一番好きなページだ。
「――イグニス?」
「! っ……」
急に名前を呼ばれた事に驚いてバサリと床に本が落ちる。
慌てて拾おうと伸ばした手に白くて華奢な手が重なり、思わず顔を上げると、自分の目の前にいる少女とパチリと目が合った。
「ごめんね、驚いた?…本、大丈夫?……あー…、読んでたところ、分からなくなっちゃったね」
「いや、気にしなくて良い。俺がちゃんと持っていなかったのが悪いんだ。読んでいた場所も分かるから安心してくれ」
しょんぼりと肩を落としたティナの頭をぽんぽんと軽く撫でてからイグニスは床に落ちた創星記を拾い、再びページを捲る。
「その本は?」
「俺の世界にあった本だ。さっきこの棚で見つけて、懐かしくて読んでいたところだった」
「そう。……とても綺麗な本ね」
「ああ。ここの挿し絵が昔から好きでな」
先程まで読んでいたページまで捲ってからティナにも見えるように大きく開くと、イグニスは挿し絵の一部に指をさした。
「この絵は神に選ばれた女性が星の力と逆鉾を授かるシーンなんだが」
イグニスの指が指し示す場所は空から舞い降りる偉大な神でもなく、逆鉾を授かる女性でもなく、その脇に小さく描かれている白い羽根を持つ女性だった。
「……この天使、誰かに似ていると思わないか?」
「え?」
ゆるやかなウェーブのかかった柔らかい白金色の髪に、抜けるような真っ白な肌、透き通った紫色の瞳。
「…………もしかして、私?」
「ああ。最初にティナをこの世界で見かけた時は本当に驚いた」
本の中から天使がそのまま抜け出してきたのかと思うぐらいそっくりな容姿だったのだ。
「君は本当はこの挿し絵の天使なんじゃないかと思った。いつか本の中へと帰ってしまうんじゃないか、って。そう考えたら何となくティナから目が離せなくなって。……気が付いたら、いつの間にか君を好きになっていたらしい」
「ふふ、何それ」
「やはり、おかしいか…?」
「ううん。……嬉しい」
照れたようにはにかみながらティナが隣に寄り添ってくる。
羽根のない細い肩をそっと抱き寄せて、イグニスは
《仲間達に交際がバレるまで、残り14日》