17日後に交際していることがバレるSS。
「好きです。俺と付き合ってください」
「ええ、喜んで」
駄目元で下げた頭。
駄目元で差し出した右手。
駄目元で告げた彼女への想い。
――潔く玉砕するつもりだった。
それなのに自分の目の前に居る天使のように可愛いらしい少女から返ってきたのは思いがけない了承の返事と、差し出した右手を包み込む白くて華奢な少女の手の温もりだった。
「――……えっ。……え?」
自分の身に何が起きたか分からずイグニスは気の抜けたような声を上げると、目の前の少女は困ったように淡く微笑む。
天使だ。
ここに天使が居る。
「……付き合う、という言葉の意味、分かってるか?」
ひょっとしたら天使には人間の言葉が通じないのかもしれないと若干不安になった。
だって彼女には自分の申し出を喜ぶ理由がない。
何故なら彼女とは今まで一度も話した事などないのだから。
これは一方的な自分の片想いのはず、だった。
「えーと…。付き合う、っていうのは…、その。私とイグニスが恋人同士になる、って事で良いんだよね?」
「左様でございます」
自分の想定していた展開と大きく違った少女の反応に思わず謎の敬語が飛び出すぐらい、イグニスは激しく動揺していた。
「今まで誰ともそういう関係になった事がないから詳しくは分からないけど、付き合うって言葉の意味ぐらいちゃんと分かってるよ?……色々な事は、イグニスが教えて?」
彼女は照れ隠しのように一度視線を下に落としてから、こちらの様子を窺うようにそっと視線を持ち上げる。
無自覚な上目遣い。
彼女は天使じゃなくて小悪魔だ。
いや、小悪魔のような天使だ。可愛い。
「ぜっ」
「ぜ?」
「……善処する、……………つもり、です」
ここは男らしく『俺に全部任せろ』と言いたいところだが、異性との交際経験が無いのは自分も同じである。
自信の無さがまたしても妙な敬語に現れてしまった恥ずかしさで、イグニスの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「………………」
「………………」
振られた時の想定は何度もしていたが了承された時の想定は一度もしていなかった事に今更気がつき、互いの手を握って見つめ合ったまま微妙な空気が流れた。
「……本当に、俺でいいのか?」
「うん」
「話した事もないのに?」
「うん」
「不安じゃないのか?」
「うん」
どうして、と聞き返そうとする前に彼女が――ティナが先に口を開いた。
「これからはいっぱいお話ししよう?」
「あ、ああ」
「イグニスの事、たくさん教えて欲しい」
「ああ」
「私の事もたくさん知って欲しいな」
「それはもちろん」
「……もう、後悔はしたくないの」
「……ッ……」
"後悔"という言葉に思わず息を飲む。
後悔。
そう、自分も酷く後悔したから彼女に告白する気になったのだ。
旧世界から新世界へと飛ばされたあの時――当たり前のように毎日一緒に居た仲間達とバラバラになった時――最初に探したのは同郷の友と、話した事もない彼女の姿だった。
離れてから初めて自分の気持ちに気が付くと同時に、もっと早くに勇気を出して彼女に話し掛けていれば良かったと後悔した。
だからもう一度彼女に会えた時、今度こそ話をしようと決意して――会えない間に色々な想いが煮詰まったのもあり――再会した途端に冒頭の告白シーンへと突入した訳だが。
まさか彼女も自分と同じように思っていただなんて、どんな奇跡だろうか。
「ティナ。……君の事を抱き締めてもいいか?」
「………うん」
繋いでいた手を離して互いにぎこちなく抱き合う。
彼女の身体は温かくて柔らかくて、小さくて壊れそうで。
ギュッと抱き締める事を躊躇っているイグニスとは対照的にティナはギュッと遠慮なくイグニスの身体に抱き付いてくる。
それがまた可愛くて仕方がない。
――ああ、勇気を出して告白して良かった。
イグニスは幸せを噛み締めていた。
《仲間達に交際がバレるまで、残り17日》
「ええ、喜んで」
駄目元で下げた頭。
駄目元で差し出した右手。
駄目元で告げた彼女への想い。
――潔く玉砕するつもりだった。
それなのに自分の目の前に居る天使のように可愛いらしい少女から返ってきたのは思いがけない了承の返事と、差し出した右手を包み込む白くて華奢な少女の手の温もりだった。
「――……えっ。……え?」
自分の身に何が起きたか分からずイグニスは気の抜けたような声を上げると、目の前の少女は困ったように淡く微笑む。
天使だ。
ここに天使が居る。
「……付き合う、という言葉の意味、分かってるか?」
ひょっとしたら天使には人間の言葉が通じないのかもしれないと若干不安になった。
だって彼女には自分の申し出を喜ぶ理由がない。
何故なら彼女とは今まで一度も話した事などないのだから。
これは一方的な自分の片想いのはず、だった。
「えーと…。付き合う、っていうのは…、その。私とイグニスが恋人同士になる、って事で良いんだよね?」
「左様でございます」
自分の想定していた展開と大きく違った少女の反応に思わず謎の敬語が飛び出すぐらい、イグニスは激しく動揺していた。
「今まで誰ともそういう関係になった事がないから詳しくは分からないけど、付き合うって言葉の意味ぐらいちゃんと分かってるよ?……色々な事は、イグニスが教えて?」
彼女は照れ隠しのように一度視線を下に落としてから、こちらの様子を窺うようにそっと視線を持ち上げる。
無自覚な上目遣い。
彼女は天使じゃなくて小悪魔だ。
いや、小悪魔のような天使だ。可愛い。
「ぜっ」
「ぜ?」
「……善処する、……………つもり、です」
ここは男らしく『俺に全部任せろ』と言いたいところだが、異性との交際経験が無いのは自分も同じである。
自信の無さがまたしても妙な敬語に現れてしまった恥ずかしさで、イグニスの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「………………」
「………………」
振られた時の想定は何度もしていたが了承された時の想定は一度もしていなかった事に今更気がつき、互いの手を握って見つめ合ったまま微妙な空気が流れた。
「……本当に、俺でいいのか?」
「うん」
「話した事もないのに?」
「うん」
「不安じゃないのか?」
「うん」
どうして、と聞き返そうとする前に彼女が――ティナが先に口を開いた。
「これからはいっぱいお話ししよう?」
「あ、ああ」
「イグニスの事、たくさん教えて欲しい」
「ああ」
「私の事もたくさん知って欲しいな」
「それはもちろん」
「……もう、後悔はしたくないの」
「……ッ……」
"後悔"という言葉に思わず息を飲む。
後悔。
そう、自分も酷く後悔したから彼女に告白する気になったのだ。
旧世界から新世界へと飛ばされたあの時――当たり前のように毎日一緒に居た仲間達とバラバラになった時――最初に探したのは同郷の友と、話した事もない彼女の姿だった。
離れてから初めて自分の気持ちに気が付くと同時に、もっと早くに勇気を出して彼女に話し掛けていれば良かったと後悔した。
だからもう一度彼女に会えた時、今度こそ話をしようと決意して――会えない間に色々な想いが煮詰まったのもあり――再会した途端に冒頭の告白シーンへと突入した訳だが。
まさか彼女も自分と同じように思っていただなんて、どんな奇跡だろうか。
「ティナ。……君の事を抱き締めてもいいか?」
「………うん」
繋いでいた手を離して互いにぎこちなく抱き合う。
彼女の身体は温かくて柔らかくて、小さくて壊れそうで。
ギュッと抱き締める事を躊躇っているイグニスとは対照的にティナはギュッと遠慮なくイグニスの身体に抱き付いてくる。
それがまた可愛くて仕方がない。
――ああ、勇気を出して告白して良かった。
イグニスは幸せを噛み締めていた。
《仲間達に交際がバレるまで、残り17日》
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