【第三集】イケナイ思惑。
皆と任務に出るようになってから早くも十日程が経ったが、今のところイグニスが心配していたような衝突は一切起こっていない。
『軍師だから』
『優秀だから』
『頭が良いから』
リーダー達から一目置かれるのは当然、と皆は素直にそう思っているようだった。むしろ『リーダーでもないのに大変だね』と自分に対する同情的な声まで上がる始末で、反発される事を最初から疑ってかかっていた自分は何だか少しだけ拍子抜けした。
「ねぇ、ヤ・シュトラに気に入られたんだって?災難だねぇ!ヤ・シュトラは人使いがスゴく荒いから気を付けてよ!」
そう言ってバシン、と強い力で背中を叩いてきたのは格闘家のような格好で黒い仮面を身に付けている明るい性格の女性、イダだ。
「おい、イダ。少しは力の加減をしてやれよ。彼、戸惑ってるじゃないか。可哀想に」
呆れた顔でやれやれと腕を組んでいる背の低い呪術師の男はパパリモと言ったか。ごめんごめん、と朗らかに笑っているイダに対してパパリモはわざとらしく盛大な溜め息をついている。
「イグニス、君の任務は順調かい?」
「ああ。概ね今のところはな。大した反発もなく順調だ」
「ここはイダみたいに頭よりも先に手が出るような連中ばっかりだからね。難しいことを考えないで済むのならそれに越したことはないんだろう。僕や君のような人間が苦労する訳だよ。…ああ、でも、そういえば」
パパリモは、ふむ…、と腕を組んで思案げな顔をしたままイグニスのことを見る。
「明日はもしかしたら君の言う"反発"があるかもしれないな」
「えっ、なんでなんで?」
隣で話を聞いていたイダが興味深そうに割り込んでくる。
「僕の記憶に間違いがなければ明日のイグニスの任務の相手はサイファーとビビだ」
「げっ、サイファー?!」
あからさまにイダが嫌そうな顔をする。その反応だけで"サイファー"という人間が大体どういう人物なのか透けて見えるようで、どうやらあまり人に好かれるタイプではないらしい。
「あちゃー、イグニスも大変だね~。そんなのとも任務に行かなきゃいけないだなんて」
「そんなに酷いのか?」
「もー酷いなんてもんじゃないよ!マーテリア陣営の中では間違いなく一番の問題児だろうね」
「そう言う君も中々だと思うけど」
パパリモの皮肉をイダは聞いているのかいないのか、特に気にする様子もなくサイファーについての色々な武勇伝を次々に話してくれる。
話に聞く限りでも成程酷い。
明日の任務は今までで一番一筋縄ではいかなさそうだった。
***
「うぜぇんだよ」
任務の説明を受ける為の部屋で顔を合わせてから開口一番、目付きの悪い金髪の男はそう言った。
その顔には痛ましいまでの刀傷が一筋。スコールと同じ傷を持つ男――サイファーだ。
「新入りの癖にリーダー気取りのつもりか。こそこそと犬みたいに人のこと嗅ぎ回りやがって」
「……何の話だ」
「全部知ってんだよ。てめぇ、俺の事をスコール達から探ってたんだろ?風神と雷神がその現場を見たって言ってたぞ」
「ああ…、そうだな。確かにお前の話を聞いて回ったな」
思い当たる節が幾つかあったのでイグニスは素直に肯定する。
だがそれがどうやらサイファーからの反感を買ったらしく、急に胸ぐらを掴まれて激しく凄まれた。
「何様のつもりだ」
「…………」
「何様のつもりだっつってんだよ!!ああ!?」
あわや一触即発の雰囲気に今や部屋中の視線が二人に集まっていた。
「サイファー、止めるもんよ。イグニスはリーダー達から頼まれてやってることだもんよ」
「雷神、正論。サイファー、止」
「うるせぇ!外野は黙ってろ!」
唯一の味方であるハズの雷神と風神にさえ噛み付かんばかりのサイファーの態度に、ふっ、とイグニスは乾いた笑みを溢した。
――ああ、この目。懐かしいな。
この反抗的な目には良く見覚えがある。
自分の中に燻る感情を上手くコントロール出来ず周囲に当たり散らす、甘えん坊の子どものような目だ。
ちょうど高校生時代のノクティスがこんな目をしていた。
あの頃のノクティスには自身の抱える壮大な使命と強大な力を持て余しているような、そんな精神的な脆さと弱さがあった。
そしてこのサイファーという男にもノクティスと同じような燻りを感じる。
(まだ"若い"な。若さ故の未熟さだ)
「っ、てめぇ…!何ニヤニヤしてやがる!その眼鏡を粉々にしてやっても良いんだぞ!」
「やれるものならやってみろ」
胸ぐらを掴んでいるサイファーの手首をイグニスが掴んで、グッと強く力を込める。
「………あ?それで全力か?弱ぇな。口だけか」
「ああ、そうだな。俺は攻撃型 じゃない。確かに弱いだろう。だがお前に負ける気はしない」
「んだと…っ!!」
「さ、サイファー…ダメだよ…!」
「るせぇ!ガキはすっ込んでろ!!」
ビビが止めるのも聞かず、イグニスの煽りにサイファーはこれ以上ない程の怒りをぶつけてきた。
「ウォーリアーオブライト、居るか?」
「私ならここだ、イグニス」
「悪いが今日は任務の内容を大きく変えるぞ。…サイファー」
空いている方の手でイグニスはクッ、と眼鏡を直してから未だ荒ぶる猛獣のような男の目を見据えた。
「少し俺の鍛練に付き合ってくれないか?」
猛獣の目はか弱い獲物を見つけたかのようにニンマリと細められた。
『軍師だから』
『優秀だから』
『頭が良いから』
リーダー達から一目置かれるのは当然、と皆は素直にそう思っているようだった。むしろ『リーダーでもないのに大変だね』と自分に対する同情的な声まで上がる始末で、反発される事を最初から疑ってかかっていた自分は何だか少しだけ拍子抜けした。
「ねぇ、ヤ・シュトラに気に入られたんだって?災難だねぇ!ヤ・シュトラは人使いがスゴく荒いから気を付けてよ!」
そう言ってバシン、と強い力で背中を叩いてきたのは格闘家のような格好で黒い仮面を身に付けている明るい性格の女性、イダだ。
「おい、イダ。少しは力の加減をしてやれよ。彼、戸惑ってるじゃないか。可哀想に」
呆れた顔でやれやれと腕を組んでいる背の低い呪術師の男はパパリモと言ったか。ごめんごめん、と朗らかに笑っているイダに対してパパリモはわざとらしく盛大な溜め息をついている。
「イグニス、君の任務は順調かい?」
「ああ。概ね今のところはな。大した反発もなく順調だ」
「ここはイダみたいに頭よりも先に手が出るような連中ばっかりだからね。難しいことを考えないで済むのならそれに越したことはないんだろう。僕や君のような人間が苦労する訳だよ。…ああ、でも、そういえば」
パパリモは、ふむ…、と腕を組んで思案げな顔をしたままイグニスのことを見る。
「明日はもしかしたら君の言う"反発"があるかもしれないな」
「えっ、なんでなんで?」
隣で話を聞いていたイダが興味深そうに割り込んでくる。
「僕の記憶に間違いがなければ明日のイグニスの任務の相手はサイファーとビビだ」
「げっ、サイファー?!」
あからさまにイダが嫌そうな顔をする。その反応だけで"サイファー"という人間が大体どういう人物なのか透けて見えるようで、どうやらあまり人に好かれるタイプではないらしい。
「あちゃー、イグニスも大変だね~。そんなのとも任務に行かなきゃいけないだなんて」
「そんなに酷いのか?」
「もー酷いなんてもんじゃないよ!マーテリア陣営の中では間違いなく一番の問題児だろうね」
「そう言う君も中々だと思うけど」
パパリモの皮肉をイダは聞いているのかいないのか、特に気にする様子もなくサイファーについての色々な武勇伝を次々に話してくれる。
話に聞く限りでも成程酷い。
明日の任務は今までで一番一筋縄ではいかなさそうだった。
***
「うぜぇんだよ」
任務の説明を受ける為の部屋で顔を合わせてから開口一番、目付きの悪い金髪の男はそう言った。
その顔には痛ましいまでの刀傷が一筋。スコールと同じ傷を持つ男――サイファーだ。
「新入りの癖にリーダー気取りのつもりか。こそこそと犬みたいに人のこと嗅ぎ回りやがって」
「……何の話だ」
「全部知ってんだよ。てめぇ、俺の事をスコール達から探ってたんだろ?風神と雷神がその現場を見たって言ってたぞ」
「ああ…、そうだな。確かにお前の話を聞いて回ったな」
思い当たる節が幾つかあったのでイグニスは素直に肯定する。
だがそれがどうやらサイファーからの反感を買ったらしく、急に胸ぐらを掴まれて激しく凄まれた。
「何様のつもりだ」
「…………」
「何様のつもりだっつってんだよ!!ああ!?」
あわや一触即発の雰囲気に今や部屋中の視線が二人に集まっていた。
「サイファー、止めるもんよ。イグニスはリーダー達から頼まれてやってることだもんよ」
「雷神、正論。サイファー、止」
「うるせぇ!外野は黙ってろ!」
唯一の味方であるハズの雷神と風神にさえ噛み付かんばかりのサイファーの態度に、ふっ、とイグニスは乾いた笑みを溢した。
――ああ、この目。懐かしいな。
この反抗的な目には良く見覚えがある。
自分の中に燻る感情を上手くコントロール出来ず周囲に当たり散らす、甘えん坊の子どものような目だ。
ちょうど高校生時代のノクティスがこんな目をしていた。
あの頃のノクティスには自身の抱える壮大な使命と強大な力を持て余しているような、そんな精神的な脆さと弱さがあった。
そしてこのサイファーという男にもノクティスと同じような燻りを感じる。
(まだ"若い"な。若さ故の未熟さだ)
「っ、てめぇ…!何ニヤニヤしてやがる!その眼鏡を粉々にしてやっても良いんだぞ!」
「やれるものならやってみろ」
胸ぐらを掴んでいるサイファーの手首をイグニスが掴んで、グッと強く力を込める。
「………あ?それで全力か?弱ぇな。口だけか」
「ああ、そうだな。俺は
「んだと…っ!!」
「さ、サイファー…ダメだよ…!」
「るせぇ!ガキはすっ込んでろ!!」
ビビが止めるのも聞かず、イグニスの煽りにサイファーはこれ以上ない程の怒りをぶつけてきた。
「ウォーリアーオブライト、居るか?」
「私ならここだ、イグニス」
「悪いが今日は任務の内容を大きく変えるぞ。…サイファー」
空いている方の手でイグニスはクッ、と眼鏡を直してから未だ荒ぶる猛獣のような男の目を見据えた。
「少し俺の鍛練に付き合ってくれないか?」
猛獣の目はか弱い獲物を見つけたかのようにニンマリと細められた。