◇空色の

イルカを持って自室に入ってドアを閉めた。
同時にヒル魔は吹き出した。
口を押さえて声が漏れないように暫く笑う。

ファンシーなイルカのぬいぐるみ(正確にはアームレストだが)。
糞ジジイ。テメーこれあの店のレジに並んで買ってきたのか。
女だらけのあの店で。恐らく至極まじめな顔で。
だいたい、役に立つとはいえ何でイルカだ。
可愛いだろ、ってなんだ。
女子か。カワイイもの大好き系の女子かテメーは。

あとな。
アームレストって俺とっくに持ってるし使ってるぞ。
アマゾ◯だか楽◯だかで買った低反発のやつ。よく覚えてねえが数千円だったかな。
テメー俺の部屋に何度も出入りしてるのに見てねえのか。

だめだ笑えて仕方ねえ。
あの店で、あのムサいツラでイルカ抱えてレジに並んだのか。
Tシャツにニッカポッカの大工服で。
ああ、腹がくすぐったい。

けど。
何だか温かい。

笑いおさめるとヒル魔は机に近づいた。
キーボードの前に置いてあるシンプルな黒いアームレスト。
万一ムサシが入って来てもバレない場所に隠す。
代わりにイルカを置いてみた。
机の前に座って両腕を乗せてみた。
ふにゃりと腕が沈む。

うーーーーーーん。

……………………微妙。

でもせっかくだから使ってやるよ糞ジジイ。
せっかく買ってきてくれたんだもんな。
俺のために買ってきてくれた、大切な土産だもんな。

ヒル魔は再びキーを叩き始めた。
空色のイルカに腕を乗せて。
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