◇空色の

「ただいま」
「お帰り」
「……なんだその妙なポーズは」
「妙は余計だ糞ジジイ。ヨガだヨガ」
「何に効くんだ」
「肩凝り。パソいじってたら凝ってきた」
「そうか。じゃあやっぱり買ってきてよかったな」
「何を」
「土産。使ってみろ」
差し出された大きめのビニール袋。
白地に緑で店のロゴが書かれている。
ヒル魔はムサシ言うところの〝妙なポーズ〟を解いて起き上がった。
土産? 何だ。
受け取ってテープを剥がして中に手を入れた。
ふわりと柔らかな感触。
ガサゴソと取り出すと。
……なんだこれ。
……ぬいぐるみ……?
緩く曲線を描いた空色のぬいぐるみ、らしきもの。
フリース素材で手触りはいい。
尖ったくちばしにくりっとした目。申し訳程度に手びれと尾ひれがついている。
……イルカ? イルカだよなこれ。
ファンシーな空色のイルカ。
でもぬいぐるみにしては細長い。直径で40センチくらいはありそうだ。
「可愛いだろ。役にも立つぞ」
ヒル魔は答えに詰まった。
「……これ……何だ?」
「アームレストっていうやつだ。近所の店で買ってきた」
近所の店ってテメー、とヒル魔は思った。
ロゴを見れば分かるがココ女子率100%だぞ。俺でも知ってる。何でも300円でオシャレ系の雑貨だのインテリアだの売ってる店だ。
「わざわざ入って買ってきたのか」
いや、とムサシは説明を始めた。
ここウチの店の近所にあってな。壁の一部がいきなり崩れたから応急措置だけでも何とかしてくれって電話が来たんだよ。行ってみたら大したことなくてな。塗装が剥がれてただけだった。ウチの資材で何とかなったから修繕してやった。
「それでな、帰ろうとしたらそれが目についた」
得意そうなムサシの顔。
「〝長時間パソコンを使う方に!首や肩の負担を軽減します☆〟て書いてあったぞ」
お前にぴったりだろ、とムサシは続けた。
「その店、何でも300円らしい。税込でも324円だ。ほかのものは別に興味なかったがそれはお前の役に立ちそうだろ」
「…………」
ヒル魔の口が引き攣った。
言いたいことはいろいろあったが何とか耐えた(偉いぞヒル魔)。
「……サンキュー。使わせてもらう」
「そうしろ、そうしろ」
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