ハニートラップ ──まんまるな天使
青空に審判の笛が響いた。ハーフタイムだ。選手たちはセットを解く。ぞろぞろとチームエリアへ、そして選手控室に向かう。スタンドの観客たちも立ち上がる。柵に近づいて選手に声をかけようとする者、手洗いへ向かう者。三々五々と立っていく。ムサシはその様子を見守る。
ここは東京都西部に位置するあるスタジアムだ。某大企業の名を冠し、かなり規模が大きい。巨大なドーム、そして陸上競技場に人工芝のフィールド。広場や会議室、売店やレストランも併設されており、他にもシャワー付きの更衣室やウォームアップルームなど至れり尽くせりの設備を誇る。ムサシたちがいるのはサッカーやアメフト用に作られた施設、人工芝のフィールドの一角である。
今日行われている試合はバベルズのそれではない。同じ社会人リーグの中の一試合であるが、ムサシとバベルズはその補佐の当番なのだ。複数の設備を持つ広大なスタジアムであるからイベントによって入場ゲートや使用できる箇所は異なる。選手やチームスタッフ、審判、チェーンクルー、カメラマン。そしてもちろん観客たち。そういった人々のための受付、会場整理。見回り、警備。広報、清掃。そういうサポートが今日のバベルズの面々の役目である。
フィールドではチアのショーが始まろうとしている。一列に並んだチア達、重低音も賑やかな音楽。スタンドではチアの関係者なのだろう人々が歓声をあげ、カメラマン達も一斉に機材を構えている。
そのスタンドから一人の男が抜け出した。
客席から立って階段をおり、トイレ脇の通路を歩く。観客用の出入り口から外に出た。敷地の中を通って駐車場へ向かうようだ。
広大な駐車場と駐められた多くの乗用車。そこをだが男は素通りした。ゲートを抜けてスタジアムの敷地外に出る。何だか辺りをはばかるような風情だ。
敷地の外は広い歩道になっている。そこで男は立ち止まった。大きな街路樹の枝の下。まるで身を隠すようにおのれの位置を定める。
きょろきょろと辺りを窺い、ふところから何か取り出した。
その手には煙草とライター。
いけない、とムサシは思った。敷地内はもちろんのこと歩道も全面禁煙だ。ここで喫煙などさせるわけにはいかない。挙動からして確信犯だろう。止めなければ。
──なんで動けねえんだ
ここは禁煙です、男にそう声をかければいい。なのにムサシの体は動かない。声も出せない。
音も立てずに煙草を取る男。口にくわえた。うつむいてかざしたライターに火がつく。
その瞬間。
ビーーッ!!
けたたましい警報音。
あたふたする男と同じほどムサシも驚いた。何だ、この音は。ビービーとやかましく続く音。どこから聞こえてるんだ、それにあれ……あの穴は。
舗装された歩道に複数の穴が開く。地面がスライドするように。その穴から飛び出したのは細い管のようなもの。てっぺんはシャワーヘッドのような形状だ。それが一斉に男に襲いかかる。
ブシャアアアアアア!!
大量の水が噴出した。何が起こったのかも分からないように立ち尽くす男。頭から浴びせられる水、たちまち濡れ鼠だ。呆然とびしょ濡れになる男。
ムサシは頭を抱えた。あいつだ。こんなことをするのはあいつ──ヒル魔しかいねえ。
「ケケケケケ」
ガション、ガションと一昔前のロボットのような足音。長い四つ足のマシンに乗ったヒル魔がどこからか現れた。立ち尽くす男に高らかな一声。
「ここは禁煙だ、糞ヤニ野郎」
はっと男は我に返ったようだ。慌てふためいて逃げ出した。文字通り、脱兎のごとく。
ほうほうの体で走り去る男。
ケケケと笑う金髪頭。
──ああ、もう、こいつは……
目を覆いたくなる思いがムサシを襲う。ちょっと注意すればいいだけじゃねえか、なのに何だってこいつはこう、することが極端なのか。
「ヒ、ヒル魔」
今度は声が出た。
「おう」
妙なマシンに乗ったままのヒル魔がこちらを向く。
「お前、なあ……」
もうムサシは二の句が告げられない。ヒル魔は何だか無意味に勝ち誇るようだ。
「ルール違反は重罪だろ。試合でも何でもな、ケケケ」
「あんなもんどうやって細工した」
「水道局に手ェ回した」
けろりとヒル魔は言い放つ。
「ちょっと頼んだら快く引き受けたぞ」
「そういうことじゃないだろう」
どうせ脅迫したに決まっている。頭が痛い。もうちょっと別のやり方があるだろうにどうしてこいつはこうなんだ。
「あのな、ヒル魔」
もう少しお前は落ち着け。そうムサシは言葉を続けようとした。だがどういうわけかまた声が出なくなった。
──おかしいな
ヒル魔はくるっと後ろを向いた。マシンを操作してどこかに歩き去ろうとしている。いけない、追いかけて止めなければ。なのに声はおろか体も動かない。
──おい待て、ヒル魔!
ヒル魔。
ヒル魔。
待てったら。
ヒル魔。
「……ひうま」
そんな自分の声で目が覚めた。
──……?
ぼうっと視界に入るもの。
白い天井。頭を起こすとガラスのテーブル。テレビ。その後ろのベージュの壁。
ソファに寄りかかっていたようだ。そんな自分をムサシは意識した。
「…………」
どうにか身を起こす。ぶるり、頭を一度振った。おのれを叱咤しながら瞬きを繰り返す。
──夢か
そう思った。
テーブルにはヒル魔愛用のノートパソコンがある。持ち主はここにはいない。きっとムサシがこっそりそう呼んでいる"暗黒部屋"にでもこもっているのだろう。
──はあ
ほっと一息ついてまた脱力する。
夢か。夢で良かった、本当に。
それにしても何て夢だ、まったく。
──大体、ただの夢じゃ終わりそうにねえからな
何となく怖気をふるうようにムサシは思う。明日のゲームも無事に済めばいいが。
顔でも洗うかと立ちあがろうとした。すると廊下から"暗黒部屋"のドアの開く気配。
「おう、起きたか」
居間にヒル魔が──ムサシの恋人が──入ってきた。いつもの黒ずくめの格好だ。
「よく寝てたから起こさなかったぞ」
「……ああ、うん」
どうもムサシは居間のソファでうたた寝をしてしまっていたらしい。ようやく現実がまともに戻ってくる。
「なあ、ヒル魔」
「あ?」
「お前、水道管を……」
「は?」
恋人は怪訝な顔をする。いきなり何を言い出すんだと言いたげだ。そりゃそうかとムサシは思った。また首を振る。ぶるり。
「いや、何でもねえ」
「水道管がどうした。なんか細工して欲しいのか」
「違う違う違う、何でもねえ。気にするな」
「?」
まだ訝しげな顔のヒル魔。観察するようにムサシを眺めて、少し心配そうな声を出した。
「テメー疲れてるんじゃねえか。大丈夫か明日」
「ああ、まあ大丈夫だ」
「糞デブだって見にくるんだろ。ホントに大丈夫か」
「うん」
気を取り直してムサシは立ち上がった。
「まあ、ちょっと疲れはあるかもしれねえ。もう寝るがお前はどうする」
「俺はまだすることがある。いいからテメーは寝ろ、明日試合だしな」
「ああ、そうする。おやすみ」
床に座ってPCを開くヒル魔。入れ替わるようにムサシは廊下に出た。就寝の支度のために。
あんな夢を見たのは試合前で気が昂っていたからかもしれない。そう思った。明日は秋のリーグ戦2戦目。結成後まもない武蔵工バベルズ、その存在をアピールするためにも勝ち進まなくてはならない。どの試合も大切な一戦だ。間違っても気の迷いで失敗するようなことがあってはならない。それに明日はヒル魔の言葉通り、栗田も観戦に来てくれるのだ。親友の目の前で勝利をあげたいし、ゲーム後は久しぶりに3人で食事することになっている。そのためにも勝たなくては。気持ちよく栗田と会えるように。
洗面所に入りながら、気持ちを切り替えようとムサシは努めた。
ムサシとヒル魔は高校時代から付き合っている。そうなったのはムサシの復帰後のことだ。部室でのキス。何も言葉らしいものは交わさず、ただ黙ってくちづけをした。それだけで想いが通じたとふたりとも感じた。ただふたりきりのデートや逢瀬や、そんなことを何度もしたわけではない。キスだってぎこちないものを何度かしただけだ。それでも心は結ばれていた。だから卒業後は一緒に住むかということになったのだ。自活を考えていたムサシ、長いホテル暮らしをやっとやめる気になったヒル魔。同居はそういうふたりの都合がうまく合ったことも実現の一助となった。
だがふたりはふたりの仲を周囲には伏せていた。部の仲間くらいには伝えてもいいかと少し思ったが、どうにも決まりが悪かったのだ。それに、せめて栗田には話したほうがいいんじゃねえかとムサシは言ったが、ヒル魔が反対した。そんなことであいつに気を使わせることはねえ、と。それもそうかとムサシも思った。それゆえ、卒業まで──そして卒業後半年ほど経った現在でもふたりの仲は"秘密"だ。同居というより実態は恋人どうしの同棲なのだが、表向きはただのルームシェア。そんな風にふたりは装っていた。
それでもムサシも、そしてヒル魔も幸せだった。惚れた相手が同じ屋根の下にいる。朝起きればそこにヒル魔が、ムサシがいる。おやすみのキスをすることもある。まだどこかに照れがある、でも甘酸っぱく満ち足りたキス。何だか毎日はずむような気持ち、わけもなく張り切るような気持ちだ。そんな日々を過ごしていた。
ふたりとも、誰にも気づかれていないと思っている。
心からそう思っていた。
──ところが。
ここは東京都西部に位置するあるスタジアムだ。某大企業の名を冠し、かなり規模が大きい。巨大なドーム、そして陸上競技場に人工芝のフィールド。広場や会議室、売店やレストランも併設されており、他にもシャワー付きの更衣室やウォームアップルームなど至れり尽くせりの設備を誇る。ムサシたちがいるのはサッカーやアメフト用に作られた施設、人工芝のフィールドの一角である。
今日行われている試合はバベルズのそれではない。同じ社会人リーグの中の一試合であるが、ムサシとバベルズはその補佐の当番なのだ。複数の設備を持つ広大なスタジアムであるからイベントによって入場ゲートや使用できる箇所は異なる。選手やチームスタッフ、審判、チェーンクルー、カメラマン。そしてもちろん観客たち。そういった人々のための受付、会場整理。見回り、警備。広報、清掃。そういうサポートが今日のバベルズの面々の役目である。
フィールドではチアのショーが始まろうとしている。一列に並んだチア達、重低音も賑やかな音楽。スタンドではチアの関係者なのだろう人々が歓声をあげ、カメラマン達も一斉に機材を構えている。
そのスタンドから一人の男が抜け出した。
客席から立って階段をおり、トイレ脇の通路を歩く。観客用の出入り口から外に出た。敷地の中を通って駐車場へ向かうようだ。
広大な駐車場と駐められた多くの乗用車。そこをだが男は素通りした。ゲートを抜けてスタジアムの敷地外に出る。何だか辺りをはばかるような風情だ。
敷地の外は広い歩道になっている。そこで男は立ち止まった。大きな街路樹の枝の下。まるで身を隠すようにおのれの位置を定める。
きょろきょろと辺りを窺い、ふところから何か取り出した。
その手には煙草とライター。
いけない、とムサシは思った。敷地内はもちろんのこと歩道も全面禁煙だ。ここで喫煙などさせるわけにはいかない。挙動からして確信犯だろう。止めなければ。
──なんで動けねえんだ
ここは禁煙です、男にそう声をかければいい。なのにムサシの体は動かない。声も出せない。
音も立てずに煙草を取る男。口にくわえた。うつむいてかざしたライターに火がつく。
その瞬間。
ビーーッ!!
けたたましい警報音。
あたふたする男と同じほどムサシも驚いた。何だ、この音は。ビービーとやかましく続く音。どこから聞こえてるんだ、それにあれ……あの穴は。
舗装された歩道に複数の穴が開く。地面がスライドするように。その穴から飛び出したのは細い管のようなもの。てっぺんはシャワーヘッドのような形状だ。それが一斉に男に襲いかかる。
ブシャアアアアアア!!
大量の水が噴出した。何が起こったのかも分からないように立ち尽くす男。頭から浴びせられる水、たちまち濡れ鼠だ。呆然とびしょ濡れになる男。
ムサシは頭を抱えた。あいつだ。こんなことをするのはあいつ──ヒル魔しかいねえ。
「ケケケケケ」
ガション、ガションと一昔前のロボットのような足音。長い四つ足のマシンに乗ったヒル魔がどこからか現れた。立ち尽くす男に高らかな一声。
「ここは禁煙だ、糞ヤニ野郎」
はっと男は我に返ったようだ。慌てふためいて逃げ出した。文字通り、脱兎のごとく。
ほうほうの体で走り去る男。
ケケケと笑う金髪頭。
──ああ、もう、こいつは……
目を覆いたくなる思いがムサシを襲う。ちょっと注意すればいいだけじゃねえか、なのに何だってこいつはこう、することが極端なのか。
「ヒ、ヒル魔」
今度は声が出た。
「おう」
妙なマシンに乗ったままのヒル魔がこちらを向く。
「お前、なあ……」
もうムサシは二の句が告げられない。ヒル魔は何だか無意味に勝ち誇るようだ。
「ルール違反は重罪だろ。試合でも何でもな、ケケケ」
「あんなもんどうやって細工した」
「水道局に手ェ回した」
けろりとヒル魔は言い放つ。
「ちょっと頼んだら快く引き受けたぞ」
「そういうことじゃないだろう」
どうせ脅迫したに決まっている。頭が痛い。もうちょっと別のやり方があるだろうにどうしてこいつはこうなんだ。
「あのな、ヒル魔」
もう少しお前は落ち着け。そうムサシは言葉を続けようとした。だがどういうわけかまた声が出なくなった。
──おかしいな
ヒル魔はくるっと後ろを向いた。マシンを操作してどこかに歩き去ろうとしている。いけない、追いかけて止めなければ。なのに声はおろか体も動かない。
──おい待て、ヒル魔!
ヒル魔。
ヒル魔。
待てったら。
ヒル魔。
「……ひうま」
そんな自分の声で目が覚めた。
──……?
ぼうっと視界に入るもの。
白い天井。頭を起こすとガラスのテーブル。テレビ。その後ろのベージュの壁。
ソファに寄りかかっていたようだ。そんな自分をムサシは意識した。
「…………」
どうにか身を起こす。ぶるり、頭を一度振った。おのれを叱咤しながら瞬きを繰り返す。
──夢か
そう思った。
テーブルにはヒル魔愛用のノートパソコンがある。持ち主はここにはいない。きっとムサシがこっそりそう呼んでいる"暗黒部屋"にでもこもっているのだろう。
──はあ
ほっと一息ついてまた脱力する。
夢か。夢で良かった、本当に。
それにしても何て夢だ、まったく。
──大体、ただの夢じゃ終わりそうにねえからな
何となく怖気をふるうようにムサシは思う。明日のゲームも無事に済めばいいが。
顔でも洗うかと立ちあがろうとした。すると廊下から"暗黒部屋"のドアの開く気配。
「おう、起きたか」
居間にヒル魔が──ムサシの恋人が──入ってきた。いつもの黒ずくめの格好だ。
「よく寝てたから起こさなかったぞ」
「……ああ、うん」
どうもムサシは居間のソファでうたた寝をしてしまっていたらしい。ようやく現実がまともに戻ってくる。
「なあ、ヒル魔」
「あ?」
「お前、水道管を……」
「は?」
恋人は怪訝な顔をする。いきなり何を言い出すんだと言いたげだ。そりゃそうかとムサシは思った。また首を振る。ぶるり。
「いや、何でもねえ」
「水道管がどうした。なんか細工して欲しいのか」
「違う違う違う、何でもねえ。気にするな」
「?」
まだ訝しげな顔のヒル魔。観察するようにムサシを眺めて、少し心配そうな声を出した。
「テメー疲れてるんじゃねえか。大丈夫か明日」
「ああ、まあ大丈夫だ」
「糞デブだって見にくるんだろ。ホントに大丈夫か」
「うん」
気を取り直してムサシは立ち上がった。
「まあ、ちょっと疲れはあるかもしれねえ。もう寝るがお前はどうする」
「俺はまだすることがある。いいからテメーは寝ろ、明日試合だしな」
「ああ、そうする。おやすみ」
床に座ってPCを開くヒル魔。入れ替わるようにムサシは廊下に出た。就寝の支度のために。
あんな夢を見たのは試合前で気が昂っていたからかもしれない。そう思った。明日は秋のリーグ戦2戦目。結成後まもない武蔵工バベルズ、その存在をアピールするためにも勝ち進まなくてはならない。どの試合も大切な一戦だ。間違っても気の迷いで失敗するようなことがあってはならない。それに明日はヒル魔の言葉通り、栗田も観戦に来てくれるのだ。親友の目の前で勝利をあげたいし、ゲーム後は久しぶりに3人で食事することになっている。そのためにも勝たなくては。気持ちよく栗田と会えるように。
洗面所に入りながら、気持ちを切り替えようとムサシは努めた。
ムサシとヒル魔は高校時代から付き合っている。そうなったのはムサシの復帰後のことだ。部室でのキス。何も言葉らしいものは交わさず、ただ黙ってくちづけをした。それだけで想いが通じたとふたりとも感じた。ただふたりきりのデートや逢瀬や、そんなことを何度もしたわけではない。キスだってぎこちないものを何度かしただけだ。それでも心は結ばれていた。だから卒業後は一緒に住むかということになったのだ。自活を考えていたムサシ、長いホテル暮らしをやっとやめる気になったヒル魔。同居はそういうふたりの都合がうまく合ったことも実現の一助となった。
だがふたりはふたりの仲を周囲には伏せていた。部の仲間くらいには伝えてもいいかと少し思ったが、どうにも決まりが悪かったのだ。それに、せめて栗田には話したほうがいいんじゃねえかとムサシは言ったが、ヒル魔が反対した。そんなことであいつに気を使わせることはねえ、と。それもそうかとムサシも思った。それゆえ、卒業まで──そして卒業後半年ほど経った現在でもふたりの仲は"秘密"だ。同居というより実態は恋人どうしの同棲なのだが、表向きはただのルームシェア。そんな風にふたりは装っていた。
それでもムサシも、そしてヒル魔も幸せだった。惚れた相手が同じ屋根の下にいる。朝起きればそこにヒル魔が、ムサシがいる。おやすみのキスをすることもある。まだどこかに照れがある、でも甘酸っぱく満ち足りたキス。何だか毎日はずむような気持ち、わけもなく張り切るような気持ちだ。そんな日々を過ごしていた。
ふたりとも、誰にも気づかれていないと思っている。
心からそう思っていた。
──ところが。
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