冬の片恋
ざわめく教室。
昼休みも後半に入った。昼食を終えてそれぞれがくつろいだ様子でのんびり過ごす。
その片隅で、こっそりと話し合う。
「……どうしても、言う?」
「うん」
親友の細い声。
その声も表情も、緊張をにじませて少し震えているようだ。
それでも強い決意を物語るような肩。
思いつめた瞳。
何とか、思いとどまらせることはできないだろうか。だって見たくない、親友が傷つくところなんか。
武蔵にはもう"相手"がいるらしい。細心の注意を払って──間違ってもそれがあの金髪頭だなどと気づかれないように──やんわり伝えてあった。
親友は顔色を変えた。その日は黙って帰って行った。
それでも。やっぱり、どうしても伝えたい、と言う。
ためらいがちに女生徒はまた口を開いた。
「マナ」
「なあに、しぃちゃん」
「……話したよね。武蔵、好きな人が」
「しぃちゃん」
親友が女生徒の言葉をさえぎる。
女生徒は少し驚いた。
「なに? マナ」
「あのね」
「…………」
「教えてくれてありがとう。でもね」
「…………」
「自分の気持ちに、正直になりたいの」
穏やかに。でもはっきりと親友は言った。
「…………」
微笑を浮かべた親友。胸を衝かれるような思いで女生徒は見つめる。
──この子は
──この子はこんなに強かっただろうか
いつも自分の陰に隠れるようにしていた。いつも自分がかばっていた、自分を頼りにしてくれていた親友。その子が、いつの間にこんなに。
いや、そうじゃない。武蔵を──ひとを想う気持ち。それがこの子を強くしたのだ。想う気持ちというのはこんなにもひとを強くするものなんだ。
胸にせまる思い。何も自分が告白するわけじゃない、なのにどうしてか切なく心が震える。
「分かった」
女生徒は応えた。
がんばれ、と思いながら。
──しあわせであるように
唐突にそう思った。しあわせになるように。しあわせであるように。たおやかに優しく強く、どうかいつまでも。あたしがいつまでもそばにいるから。友達だから。大好きな、友達だから。
いつまでもあたしはあんたの味方だから。
「呼んで来てあげるね。あっちで待ってて」
「うん」
親友が立ち上がって教室を出て行った。屋上に出る階段の方向へ。
そこならあまり人目につかないと思う、そう教えてあった。
女生徒は少し待つ。携帯電話の画面に浮かぶ時刻。1分。2分。──3分。
それから椅子を後ろに引いた。祈るような思いをこめて。
最後部の席で、机に向かってペンを走らせているモヒカン頭。そばにはいつもの二人、まんまるな巨漢と金髪頭。
近づいていく。
金髪頭がふとこちらに気づいた。
声が震えないように。
臆さないように、懸命に努力した。
親友の想い人。まっすぐに見つめて女生徒は声をかけた。
「──武蔵」
昼休みも後半に入った。昼食を終えてそれぞれがくつろいだ様子でのんびり過ごす。
その片隅で、こっそりと話し合う。
「……どうしても、言う?」
「うん」
親友の細い声。
その声も表情も、緊張をにじませて少し震えているようだ。
それでも強い決意を物語るような肩。
思いつめた瞳。
何とか、思いとどまらせることはできないだろうか。だって見たくない、親友が傷つくところなんか。
武蔵にはもう"相手"がいるらしい。細心の注意を払って──間違ってもそれがあの金髪頭だなどと気づかれないように──やんわり伝えてあった。
親友は顔色を変えた。その日は黙って帰って行った。
それでも。やっぱり、どうしても伝えたい、と言う。
ためらいがちに女生徒はまた口を開いた。
「マナ」
「なあに、しぃちゃん」
「……話したよね。武蔵、好きな人が」
「しぃちゃん」
親友が女生徒の言葉をさえぎる。
女生徒は少し驚いた。
「なに? マナ」
「あのね」
「…………」
「教えてくれてありがとう。でもね」
「…………」
「自分の気持ちに、正直になりたいの」
穏やかに。でもはっきりと親友は言った。
「…………」
微笑を浮かべた親友。胸を衝かれるような思いで女生徒は見つめる。
──この子は
──この子はこんなに強かっただろうか
いつも自分の陰に隠れるようにしていた。いつも自分がかばっていた、自分を頼りにしてくれていた親友。その子が、いつの間にこんなに。
いや、そうじゃない。武蔵を──ひとを想う気持ち。それがこの子を強くしたのだ。想う気持ちというのはこんなにもひとを強くするものなんだ。
胸にせまる思い。何も自分が告白するわけじゃない、なのにどうしてか切なく心が震える。
「分かった」
女生徒は応えた。
がんばれ、と思いながら。
──しあわせであるように
唐突にそう思った。しあわせになるように。しあわせであるように。たおやかに優しく強く、どうかいつまでも。あたしがいつまでもそばにいるから。友達だから。大好きな、友達だから。
いつまでもあたしはあんたの味方だから。
「呼んで来てあげるね。あっちで待ってて」
「うん」
親友が立ち上がって教室を出て行った。屋上に出る階段の方向へ。
そこならあまり人目につかないと思う、そう教えてあった。
女生徒は少し待つ。携帯電話の画面に浮かぶ時刻。1分。2分。──3分。
それから椅子を後ろに引いた。祈るような思いをこめて。
最後部の席で、机に向かってペンを走らせているモヒカン頭。そばにはいつもの二人、まんまるな巨漢と金髪頭。
近づいていく。
金髪頭がふとこちらに気づいた。
声が震えないように。
臆さないように、懸命に努力した。
親友の想い人。まっすぐに見つめて女生徒は声をかけた。
「──武蔵」
【END】