大学生活とその後 〜たのしいくらし〜

 桜の開花が進むころ。そろそろ各チームとも新歓に動き出している。ウィザーズも同じ。新入生の履修相に乗るヒル魔。
 履修相談の係は2名。ヒル魔の隣には阿含、仏頂面でどっかり座ってる。見るからに怖いので誰も近寄らない。「おい誰だ阿含にアレやらせてるの。誰も寄ってこないだろ💧」by番場

 新歓のイベントでなぜか相撲大会をすることになった。まわしをつけた番場、めっちゃ似合ってる。ヒル魔はまるで図体の違う巨漢相手に猫だましとか使って勝つ。大和はまわしを面白がって爽やかに参加、心から楽しむ。逆に心底嫌がってバックれるのが阿含。

 阿含はあれはあれでかなりスタイリストだと思う、彼なりに。まわしは阿含の美意識に反する。ヒル魔に何かちょっとした弱みを握られて嫌々相撲に参加することになっても、まわしだけは頑として拒む。

 大学を出たあと阿含はどうするんだろう。進路と言えばアメフト連盟のような組織のスタッフになる子もいるかもしれない。プレーヤーとしての自分には残念だけど見切りをつけた、でもアメフトとの繋がりはなくしたくない。そんなふうに真面目に考えそうなのは誰だろう。熱海あたりだろうか。

 高校でも大学でも、社会人ですらアメフトは「趣味」。そう割り切っている選手もいるだろう。真摯に頂点をめざしてひたすら進むのはこの国のアメフト界ではぶっちゃけしんどい。だからそういうのはごく一部のプレーヤー。そういう環境の中で、原作に出てくるキャラの果たして何人がアメフトとのつながりを保ち続けるだろう。葉柱はお父さんの仕事柄難しそうだし、第一あの子はアメフトを続けるなら「趣味」なんて割り切ることはできないだろう。鷹は……ひょいと渡米しちゃうかもしれない。お父さんと離れるために。渡米と言えば阿含も彼の国で何か荒稼ぎしてふらふら生きる道を選ぶかもしれない。女には困らないだろうし。番場は素直に就職しそう。真面目だしきっと先輩に可愛がられる。進は一途にこの国でプレーヤーとして生きる。桜庭は……悩むけどアメフトとは関係ない道を選びそう。そして進の出る試合は欠かさず観戦する。

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 なんか面白ぇことがあるかもなとひょいと海を渡った阿含。ひょんなことで先に渡米していた瀧と出会う。ハリウッドを放浪して飄々と生きてる瀧、なんだこいつはと最初は呆れる阿含。でも付き合ううちになぜか放っておけなくなる。
 瀧は阿含を怖がらない。「アハーハー!」とあくまで明るい。かたや阿含は瀧と話す時はいつも苦虫を噛み潰したような顔。でもなんだかんだであれこれと瀧の世話を焼く。そんな阿含だからますます懐く瀧。青筋を立てながら付き合う阿含。

「俺が22人いりゃ、それがドリームチームだ」。そんなイキった部分を無くさずに阿含には歳を取ってほしい。でもふと思い立って渡った彼の国で瀧と知り合って、なんだかよくわからないまま瀧のマネジメントとトレーナーをすることになった。屈託のない瀧、阿含から見たら恐ろしく隙だらけ。フィジカルはもちろん私生活のありとあらゆる面で自己管理がなってなさすぎる。青筋を立ててがみがみ文句を言う阿含。それでも瀧は自分のスタイルを崩そうとしない。アハー! と明るく伸び伸び。イライラしながらも見守る阿含。なんで俺はこんな奴の世話をやいてんだ、ああもうやめだやめ! と何度思ったか分からない。でもいつも土壇場のところで瀧を見捨てることができない。まともに考えてこいつの能力でこの国のアメフト界で、それもプロでなんか通用するわけはねえ。それでもこの馬鹿はひたむきだ。バカみたいにひたむきだ。こういう馬鹿を放っとくわけにはいかねえ、驚いたな存外俺はヤサシイところがあるんじゃねえか。瀧のことを考えていていつの間にか自分の性格にまで思いを馳せていることに気づいて、はっと我にかえる阿含。

「アハーハー! 痛い、痛いよ阿含くん!」「うるせえ我慢しろ! この俺様のマッサージなんて本来テメーごときにするもんじゃねえんだ!」「ハハ! でもいつもやってくれるよね、ありがとう!」「……やかましい、黙ってろ!」

 このふたりはカプにはならない。あくまでもコンビ。周りから呆れられるほど、文字通り凸凹な。なんであんなのと付き合ってるの? といつも阿含は取り巻きに聞かれる。その度に阿含は怒る。「あいつをあんなのと呼べるのは俺だけだ、覚えとけ」と怒る。そしてそういう阿含だからちょっとものの分かった取り巻きはいくら傲岸不遜でも無礼でも我儘勝手でも阿含が好き。なんだかんだで彼の国で阿含はけっこう好かれる。仕事は成功して不自由のない暮らし。無敵に見える阿含、唯一の泣き所(?)が瀧。今日も阿含はがみがみと瀧の世話に精を出す。

 阿含は女に不自由しない。瀧はどうだろう、意外とそう言う面ではストイックかもしれない。女の一人や二人居ねーのかテメーは、と阿含に聞かれて笑う瀧。居ないよ、欲しいとも思わない。だって仕事もアメフトも楽しいからね。それに阿含くんもいるし!
 また阿含の額に青筋が立つ

 プロテストに落ちまくる瀧。珍しくちょっと弱気になる。しょげた瀧に阿含はどんな言葉をかけるだろう。
ベッドにうつ伏せにひっくり返った瀧。バサッと叩きつけるように乱暴にタオルをかぶせる阿含。
「テメーにしょげてるヒマなんかねえぞ。10分くれてやる、その間に復活しろ。トレーニングだ」力なく笑う瀧。「……ハハ、了解」「…………」
 どっかり椅子に腰を下ろす阿含。ふたりとも無言。静かな部屋。

 そのころのこの国。「ケケケケケ!」ヒル魔の部屋からひときわ大きな笑い声。なんだか腹の底から楽しそうだがどうしたんだろう、とルームシェアしてるムサシ。やがてヒル魔がやってくる。「おい聞けよ糞ジジイ」「どうした」「糞ドレッドがコンビ組んだらしいぞ」「誰と」「ケケケ、聞いて驚け。相手はあの糞バカだと」
「は?」目を丸くするムサシ。「糞バカって、瀧? 瀧か」「そうだ、糞ドレッドと糞バカのコンビだとよ! ケケケケケ!」「そりゃまた面白いな」ムサシ、思わず破顔。ヒル魔も何だか楽しそう。「ケケケ、腹が捩れてしょうがねえ」見ればヒル魔の目尻にはまだ涙。泣くほど笑うことはないだろう、でも面白いなと楽しく思うムサシ。

 久しぶりに弟からの着信だ、どうしたんだろうと思う雲水。よう、久しぶり、というあいさつのあといきなり筋トレの方法についての質問。面食らう雲水。でも一通り説明する。「お前の役に立つかどうか分からないが」「いや俺じゃねえ」「どういうことだ」
 なぜか嫌そうに答える弟。「ん……まあちょっとな。世話を焼かなきゃいけねえ馬鹿がいる」「……そうか。頑張れよ」通話を切ってふと微笑む雲水。向こうであいつも少し変わったらしい。おそらくよい変化だろうと安堵するような気持ち。よし、あいつに負けてはいられない。俺も頑張ろうと立ち上がる。
 


(続く……かどうか分からないです)
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