◇とこしえに

玄関を出て鍵を閉めた。
マンションの外に出ると冷たい北風が吹きつけてくる。
マフラーに首を埋めた。足が速くなる。
待ち合わせ場所までは15分ほどだ。
早めに着いちまったら本屋でも覗いてればいい。

駅ビルの中に入った。強張っていた体が暖気で緩む。
ムサシは車で来るだろうがスムーズに駐車場に入れるかどうか。
寒いとこで待つの待たせるのってわけじゃねえからまあいいか。

テナントの書店に入り、ずらりと並んだ本を眺めていたら携帯が震えた。ムサシだ。
「着いたか」
「遅くなって悪いな。道が混んでた」
「いやいい。車停められたか」
「すぐそこの駐車場にな」

5階のレストラン街のエレベーター前に来い、と言って俺は電話を切った。

ムサシはすぐに現れた。
Tシャツの上にパーカーとジーンズ。
「……どうでもいいが寒くねえかその格好」
「車で来てんだ、問題ない。それより晩飯食おうぜ。腹が減った」

腹なら俺も減っている。晩飯に誘ったのは俺だ。さっさと飯を食おう。
他に用件もあるしな。
俺は先日1人で入ったカツ店にムサシを案内した。

「ここ美味いのか」
「駅ビルの中にしちゃあイケる。肉もいいし白飯も美味い」

いつも昼時や晩飯時は行列ができてるが、今日は運良くすんなり入れた。
ムサシはミックスフライ、俺はヒレカツで定食をオーダーした。
この店の揚げ物には胡麻が付いてくる。擂鉢で自分で摺る形だから、カツにかけて食べると肉の旨味と一緒に香ばしい胡麻の風味がする。良い油を使ってるせいか胃にもたれないし、ボリュームは少なめだが美味い肉を美味く、程良く食うには丁度いい。
価格が少し高めなせいか、傍若無人に騒ぐガキも鬱陶しい馬鹿ップルもいない。
いい店だ。
飯を食いながら自然に話題はアメフトのことになる。お互いのチームのこと、国内外の動向。あとはムサシの仕事に俺の大学の話。
四方山話をしながら白飯とキャベツを一杯ずつお代わりし、腹を満たした。

「うまかった。また来よう」
「そりゃよかった。そうしよう」

家まで送るか、と言われたので俺は頼むと答えた。
途中で缶コーヒーを買い、2人で駐車場に向かった。
ドアを閉じてシートベルトを締めようとするムサシに俺は言った。
「ちょっと待て」
「なんだ」
「少し話がある」
ムサシは怪訝な顔をした。
「店ん中じゃまずかったのか」


ああ、まずいな。
人に聞かれちゃまずい話だ。


俺はポケットに手を突っ込んで、ムサシの顔を見ずに座席にもたれて話しだした。
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