恋人ノ特権

  • 土方

    まだ居やがったのか、早く出て行けっ!

  • 原田

    ……俺だよ、土方さん

  • 土方

    え?――あ

  • 原田

    声もかけねぇで入っちまって、すまねぇ

  • 土方

    いつから、そこに……

  • 原田

    副長のでっけえ雷が、最後に一発落っこった辺り、かな

  • 土方

    ……ちっ

  • 原田

    悪い、つい…な。
    説教されてた奴等、こないだ入ったばっかの新隊士だろ?

  • 土方

    そうだ

  • 原田

    転がるように飛び出てった、ありゃ、まるで怯えた子犬だ。

  • 原田

    ……あいつら、泣いてたぜ?

  • 土方

    あんくれぇでメソメソされちゃあ、新選組の隊士なんざ務まらねぇ

  • 原田

    で、何やらかしたんだ?

  • 土方

    最近ここらを彷徨いてる猫がいたろう。
    そいつに、屯所の食料を勝手に与えちまってたんだよ

  • 原田

    へぇ。それで、罰は?

  • 土方

    今日明日の飯の種を調達してきてもらう。
    もちろん、金かけねぇでな

  • 原田

    てぇことは……

  • 土方

    日が暮れるまで、魚釣りと山菜採りだ

  • 原田

    あっははは

  • 土方

    なにが可笑しい

  • 原田

    いんや、すまねぇ。あんたらしいと思ってよ

  • 土方

    無断で食料に手ぇ出すことは許されねぇ。
    それに、こんな忙しい時に、野良猫に構ってる暇なんざねぇ筈だ

  • 原田

    まだ童なんだ、しょうがねえさ。
    土方さんだって、あの猫けっこう可愛がってたろ?

  • 土方

    悪さしやがるから、たまに追い飛ばしてただけだ

  • 原田

    夜中に猫へ話し掛けてんのを見た…って、千鶴が言ってたが

  • 土方

    あれは……っ

  • 土方

    ……猫のことはいいんだよ、それより。早く報告を聞かせろ

  • 原田

    報告……?

  • 土方

    今日の巡察、お前の組だったろうが

  • 原田

    ああ、そうだったな

  • 土方

    ったく、何しにこの部屋に来たんだ

  • 土方

    ……な、何だ

  • 原田

    ただ、あんたに会いたかっただけだ、って言ったら?

  • 土方

    ……ふざけやがって。
    もういい、特別変わったことがなきゃ、帰って ―――っ !?

  • 原田

    ふざけてなんかねぇぜ、土方さん

  • 土方

    おい……何する……
    は、はなせ、左之助っ

  • 原田

    ……随分、機嫌がわりい時に来ちまったな

  • 土方

    た、隊務の、報告に来たんじゃ……ねえのかよ……

  • 原田

    だから言ったろ?
    ……会いたかった

  • 土方

    ここがどこだか、わかってんだろうな

  • 原田

    ああ、わかってるぜ

  • 土方

    だったら、この手をはなせ

  • 原田

    少しの間だけでいい……
    静かにこうして抱き締めるくらい、いいだろ

  • 土方

    だ……誰か、来たら……

  • 原田

    大丈夫だ。
    すこぶる機嫌の悪い副長の部屋なんざ、今日は誰も入って来やしねぇよ

  • 土方

    お前は……のこのこ入ってきやがったじゃねえか

  • 原田

    恋人の、特権だ

  • 土方

    自惚れんな

  • 原田

    本当は、このまま掻っさらってでも、こっから飛び出して……ずっと抱いてたい

  • 原田

    そんくらい、俺はあんたに惚れ込んじまってる

  • 土方

    とんだ馬鹿野郎……だ

  • 原田

    ああ。……好きだ、土方さん――

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