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主人公設定
■罅割れた追憶の彼方に 注意事項

・夢主魔術師設定
・Not日本人(外国人)でも日本語流暢。四分の一日本人。
・逆トリップ→トリップの流れ
・【東春を待つ君へ】&【歪を象る現の中で】の夢主達の師匠。
・内容(ネタバレ)は2と3。
・グロテスク表現あり。


相変わらず自己満足で書き殴っております。ので、閲覧後の苦情はお控え下さるととてもありがたいです。

上記を踏まえた上で閲覧をお願い致します。


Hair:blue black
Eye :ice blue 
Height:166cm

詳細…
 ・六百年を誇る魔術師の家系に生まれた三人兄弟の次女。少なくとも、表上ではそういう事になっている。実際は異母兄弟。次女は幼い頃に父親が突然連れてきた経緯があるため、家族は彼女を冷遇。そのため、本来ならば長女が後継者である筈が、訳あって次女の彼女が継いで当主となったため、現在唯一生存している長女から怨恨を持たれている。魔女としての称号は孤高貴女。
 ・冷遇されてきた環境に加え、幼い頃から魔術師として育てられてきたために人として当たり前に持つ感情の一部欠落と思考のずれが少々見られる。
 ・年齢に相応せず落ち着き過ぎてるためかよく老けて見られる。
 ・弟子とはまた違った殺伐さを持つ。
name
Family name
弟弟子(女)
兄弟子(女)
先祖の名前(※紫ルートのみ)

/七. - 離



 夕刻の空を黒の斑が優雅に横切る。一羽ならば何の違和感も持たないそれは数が多いほど不穏な空気を思わせ、重複する鳴声は敗北した者達の身を一瞬びくりと震わせる。時折舞い散る黒の羽はより一層不吉で、双眸を眇めた者達の足が止まりかける。
 一斉に飛び立った烏の姿を見上げながら顎へ伝い落ちた汗を腕で一拭いした小十郎は、再び前方に目を凝らすと前へ前へと進み始める。……その最中、小走りで駆け寄ってくる足音が二つ。捉えながらも振り返らずにいたのだが。

「片倉様、」
「何だ」

 背後からかかる部下の声に、視線だけをくれてやる。すると不安気な顔が二つ、時折後方をちらりと窺いながらも問いを投げかけてきた。

「良かったんですか。片倉様の客人一人にあの場を任せちまって」
「―――」

瞬間、足が止まりそうになる。
胸に閊えたものを飲み込みながら、小十郎は冷静な顔のまま足を進め続ける。余計な思考に走りかけた際、刀の柄を強く握り締めた所為だろう。指先へ走る鈍い痛みに、ほんの僅かに眉根を寄せる。

「こんな時だって事は分かってます。けど、相手はあの松永の部下じゃないッスか。片倉様だからあの三人を相手にできましたけど……」

 部下の懸念は尤もだった。
 ――三好三人衆。
 部下の命と引き換えに竜の爪を要求された折、彼らとの交戦の経験を持つ小十郎は実のところ彼女を一人で対峙させる事に不安と迷いを抱いていた。結局、自分の胸には非常時だからという理由をつけて負情を丸め込んだのだが。

「信頼があっての一任だ。任せろと言った者の言葉を信じずにどうする」

 今思い直せば前進する足が鈍る。故に自分へ言い聞かせるように吐き出した言葉は、幸いにも部下達の追及を抑えるものとなったようだった。
 遠ざかる足音を聞き、前方へ向き直った小十郎は嘆息をそっと吐き出す。そのまま前進に集中しかけた―――その時だった。

 地から天へ駆け昇る、黒の鳴神を確かに目にしたのは。

 それが彼女の業と理解するまでに時間はそう掛からず、同時に苦戦している可能性を見出せずにはおれなかった。
 仰ぎ見て、数秒。募る不安を振り払うように顔を前方へ戻した小十郎が後方の部下に向けて低く呟く。

「行くぞ」
「は、はい……」

 先を進む男の酷く短い催促に、頷く者達の表情は硬く。この場を脱出する唯一の希望である七日月の背を追う兵の大半は、半ば気力で足を進めているようなものだった。だからこそ、時折かかる竜の右目の掛け声は兵士らにとって歩を進める為の動力源となっていたのだが。
 主に代わり一軍を率いる軍師に余裕など無い事を知る者は、ただの一人。だがそれも今は此処に居らず。


 ―――早く終わらせて来い、と。
 鳴神の音が響く度に振り返りたくなる衝動を抑えながら、未だ見えぬ峠の先を目指すのだった。




















 切り離された刃の音に、剣花が散る。
 剣先を地に走らせながら弧を描き滑走する魔女は崩しかけた構えを瞬時に整え、再度地を蹴り上げて突撃を敢行する。振り上げた中剣を槍の柄に叩き込めば、響く衝突音が白く澱んだ空気を切り裂いた。
 ぎりぎりと鍔迫り合いをする余裕は無い。真横から振り薙がれた槍を横目で捉え、交錯を切り離すことで一打を躱す。それを待っていたかのように刃が振り下ろされ、中剣の地肌を翻したネアが一撃を弾いた。
 刹那、首を狙い走る二槍を紙一重で避けると、転がるようにして後方へ退避する。

「ッ!」
ったか?まだか……」

 面具の内で呟く男の無情な声に、眉根を寄せたネアは片手で首を確認した。熱を持つそこに指を這わせると、覚えた感触は微かな滑り。思わず舌打ちをするネアは敢えて汚れた指先を視界に入れず、下段に構えるや否や爆ぜるように駆けた。

 不規則に来たる槍の殴打。それらを往なしつつ攻撃を挟み込むが、入る攻撃はどれも浅い。調子を狂わされている気がしてならないネアは三者と幾らか距離を置いて、露を払うように中剣を軽く振るった。

「以外にやるな…予定が狂う」
(それは、こちらの台詞だ)

 連係とは非常に厄介なものであると、認識を改めざるを得ないのだから。
 死神部隊と称される者達を前に、中剣を構え直したネアは一つの懸念を覚え始めていた。……ここまで梃子摺るとは思いもしなかっただけに、伊達軍が峠を越えるまでに果たして決着がつくかどうか。
 負傷した者達の身を按じながら、肩に入りかけた力を抜くと低く体勢を取る。そのまま、中段で構えようとした。
―――だが。

 突如腕へ走る痺れに、ネアは思わず顔を顰める。……痺れるだけならばまだ良い。だが、次第に柄を握る手の力が失われていくのは、一体どうした事か。

「、―――」
「ようやく気付いたか」
「だが遅い」

 面具の内で吐かれた無情の言葉。まるで策に嵌めたかのような発言に、怪訝を覚えたネアは眉間へ皺を寄せつつ目を周囲へ走らせる。すると、丁度彼女が背にしていた櫓付近に立つ燈篭にも似た像から煙が上る様を確認し、思わず舌打ちをした。
 ……足を踏み入れた時からこの空間の空気は白く澱んでいた。だが、前もって香が焚かれれいたのだと知れば納得がいく。

 香の存在に逸早く気付かなかった己を心中で叱咤しながらも対峙する者達を睨め据える。そろりそろりと進み来る三人衆との距離を縮めさせまいと一歩ずつ後退を試みながらも、麻痺は次第に全身を蝕み始めていた。


(早く、行かなければ)


 小十郎の元へ。
 焦燥に駆られる心中とは裏腹に、目前の進展は無く。力が上手く入らない手を小刻みに震わせながら、それでも構えを取るネアの足が思い切り地を蹴り上げた。

突撃を開始した直後、並歩していた三人衆が間隔を開ける様を捉えるや否や内一人に向けて一薙ぎを振る。すると退く音が甲冑の摺れる音と重なり響き、同時に背後で同様の音を聞き拾った。急ぎ真横へ身を滑らせると、地を穿つ音がネアの足元で聞こえる。
其方に視線をくれる暇も無く、右隣より来たる刃の一突きを中剣で打ち払い、次の攻撃が来る前に内一人の懐へ数歩で踏み込んだ。瞠目する男の面に向けて一閃、真下から紫電を走らせると、真っ二つに裂けた面具がからりと音を立てて地に落ちる。
 そのまま刃を返し全力で腹を突くと、男が倒れる様を目にする間もなく身を翻した。

「……嘗めるな、雑兵」

 まずは一人。
 思いつつ得物を下段に構えるネアの一見余裕の面持ちに、残る二者の顔が僅かに険しくなる。……だが、麻痺に蝕まれた腕の力はじきに限界を迎えようとしていた。
 幸いにも気力だけは健在しているため、覚られまいと平常を装う事ができる。しかし、此処からはどう対処すべきか―――そう考えつつ、数歩分ほど後方へ跳躍し、距離を開けた……その時だった。
後方から馬の嘶きと男の声が響いたのは。

ネアさん!」
「!!お前、」

 思わず振り返り、視界に入った蒼穹の衣と甲冑にネアは目を瞠った。何故戻ってきたのか、と。
 彼に見覚えはあったが、突然の事に一瞬反応を遅らせると、彼は焦燥の声を上げながら魔女の腕を馬上から掴み上げる。残る二者の攻撃が届かない内にと、告げかけた言葉を飲み込みながら。

「乗って下さい!早く!!」
「っ!」

 引き上げられるまま、男の後部に騎乗したネアは男の肩を掴む。それが合図だったのだろう、馬首を巡らせ身を反転させた馬がすぐさま疾走を開始した。後方から叫ぶ声が一度だけ聞こえたが、瞬く間に遠ざかると残された三好の声は風を切る音に掻き消されて届かなくなってしまった。




(来たる迎えは、幸か不幸か)
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