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主人公設定
■罅割れた追憶の彼方に 注意事項

・夢主魔術師設定
・Not日本人(外国人)でも日本語流暢。四分の一日本人。
・逆トリップ→トリップの流れ
・【東春を待つ君へ】&【歪を象る現の中で】の夢主達の師匠。
・内容(ネタバレ)は2と3。
・グロテスク表現あり。


相変わらず自己満足で書き殴っております。ので、閲覧後の苦情はお控え下さるととてもありがたいです。

上記を踏まえた上で閲覧をお願い致します。


Hair:blue black
Eye :ice blue 
Height:166cm

詳細…
 ・六百年を誇る魔術師の家系に生まれた三人兄弟の次女。少なくとも、表上ではそういう事になっている。実際は異母兄弟。次女は幼い頃に父親が突然連れてきた経緯があるため、家族は彼女を冷遇。そのため、本来ならば長女が後継者である筈が、訳あって次女の彼女が継いで当主となったため、現在唯一生存している長女から怨恨を持たれている。魔女としての称号は孤高貴女。
 ・冷遇されてきた環境に加え、幼い頃から魔術師として育てられてきたために人として当たり前に持つ感情の一部欠落と思考のずれが少々見られる。
 ・年齢に相応せず落ち着き過ぎてるためかよく老けて見られる。
 ・弟子とはまた違った殺伐さを持つ。
name
Family name
弟弟子(女)
兄弟子(女)
先祖の名前(※紫ルートのみ)

/五. - 対



 あれは、何だ。

 体勢はそのままに、中剣を握り直したネアの口からそんな言葉が零れかける。
 吐き出した声からして男である事には違いない。敵意が感じられるのだから、当然対峙はする。だが、今の彼女の胸中を占めているものは疑問だった。

 対峙するものが帯びる禍々しい気は人のそれとは言い難く、物体を接触なく自在に手繰り浮遊させる術は現代の技術でさえ困難なものだ。それを難なくやってのける者など、異常でしかない。やや煤けたような包帯と紅で統一された面具の間から覗く眼は白がかっていて、それが一層人から離れた存在のような印象を引き立てる。

「答えよ鼠。ぬしが属するは北条か」
「……」

 周囲を固め始める兵の中、男が吐き出した声は冷静そのものだった。追及の言は鋭く、まるで見透かすように細めた眼が乱入者を射る。

「それとも、今しがた乱入した奥州伊達の斥候か」
「―――」
「やれ、図星と見える」

 無表情ではあったが、息を呑むネアの様子から覚ったのだろう。冷徹を以って告げた男の、包帯に覆われた口元が微笑に歪む。

 伊達軍が小田原城へ到着間近だという情報は既に回っている。その事実を男との会話によって知ったネアは眉根を寄せると舌打ちをしかけた口を引き結んだ。……既に知れているからといって伊達軍がここで引き返す訳がない。将も兵も一癖ある彼らは、寧ろ勢いを殺さぬまま進攻を敢行するだろう。
 構えを直しつつ思うネアはしかし、次いで放たれた、自身の思考を覆すような男の発言に今度こそ怪訝な面持ちを作った。

「だが裏手の守りは容赦もなく鋭利ゆえ、今頃は全滅であろ」
「確証の無いものを言われて動揺するとでも」

 思うのか。
 そう、毅然とした態度で言い切り、一歩を踏み出すはずだった。……不意に耳を掠めた何かに彼女の意識が逸れなければ。

「ぬしにも聞こえるか。不幸の足音が」
「―――」

 愉快気に告げる男の“足音”が周囲の兵のものを指している訳ではない事はすぐに理解できる。己越しに何かを見透かしているのだと気付いたのは、周囲へ目を走らせつつ二歩ほど摺り足で退いた直後のこと。

 よくよく澄ませた耳、その聴力を魔力によって増幅させ、遥か後方の音に耳を傾ける。常人では決して有り得ない聴覚で音を聞き拾うネアは、やがて戦特有の喧騒を捉え―――言葉を失った。

 届いたものは、戦場では絶えない多くの断末魔。だが……聞こえてきたその方角は、伊達軍が通る予定の途ではなかったか。

(……この声は)

 聞き覚えのある兵の声から、奥州国主の苦戦に喘ぐ声まで。どうあっても劣勢が知れる音に、即座に覚えたものは嫌な予感。
 二度目の悲鳴を耳にするや踵を返しかけたが、彼女の行く手を阻むのは乱入者を包囲する豊臣の兵。じりじりと詰め寄りかける様を一望したネアは双眸を眇めて、一間。
 冷静から冷酷へ。面を一変させたネアが周囲の兵を睨め据えながら、中剣を一薙ぎした。
 まるで、対峙の間を断ち切るように。

「退け、雑兵共」

 言うが早いか、刹那魔女の腕から足元へ漆黒の雷電が突き抜ける。一歩を踏む毎に迸る雷は彼女の身に帯電し、一振りの度に弾け飛ぶ。
急変した者の様子に恐怖を感じたのか、数名の兵が僅かに後退を始めた。その内、集団の間で囁かれた単語を聞き拾った男――吉継は内心頷いた。

(よもや婆裟羅を斥候に使うとは、伊達も豪胆よな。……だが、)

 この一軍を蹴散らし、味方の軍に加勢したところで、結果の不変は明白。対峙する者が豊臣の左腕ならば、伊達軍に――奥州筆頭に、勝算など無いのだと。

 合流すべき場所に向かうべく身を翻し豊臣の兵を鮮やかな手付きで葬るネアを目視しながら、吉継は死地に向かう者の不遇を嗤うのだった。

























 不覚だった。
 行く手を阻害するは、豊臣の別動隊。その一軍を率いる者は婆裟羅者、さらに軍神にも劣らぬ高速抜刀の術と異様なまでの反射に、太刀打ちできる者は誰一人として居らず。
 それは言葉通り。竜とその右目もまた、名も知らぬ男の太刀に翻弄され、既に体中が軋み悲鳴を上げている有様だった。

 強か叩き付けられた瓦礫を背に立ち上がろうとする小十郎であったが、体勢を崩した身が地面に強く打ち付けられる。立ち上がるまでには至らなかった。

 左に携えた刀だけはしっかりと握り込んでいたが、歯を食い縛りながら起き上がった小十郎の視界に映り込む様が焦燥を募らせる。然程遠くない場所に倒れ伏した、主の姿。
 生存こそ確認できるが、駆けつける事さえ叶わない己の身を叱咤する。他を見渡せば、動かない部下の姿が多数。


 絶望。
 悔しくも、その一言が現況に相応しい。


 激怒か激痛か、地に伏す政宗の腕が酷く震える。しかしその様に冷たい一瞥をくれる男が一人。別動隊を率いて伊達軍の迎撃に成功した将。竜の一爪が届くよりも早く紫電の一太刀を叩き込んだ、豊臣の左腕――石田三成である。
 乱入者に対する関心など最初から無かったのだろう、双眸を細めると共に視線を適当に投げやった三成は刀を納める。既に壊滅状態にある伊達軍など脅威にもならない。そう判断すると、嘆息を一つ。報告はせず、このまま持ち場へ戻るべきかと考えていた……その矢先。

「小十郎!」

 蹴散らした一軍から背を向けた男の耳に、男の名を呼ぶ声が届く。戦場では稀少な異性の声に踵を返しかけた三成の双眸が薙がれ、敗将の元に駆け付ける者の予想外な容姿に、怪訝と猜疑から思わず前髪に隠れた眉間へ皺を寄せた。何故この戦場に異人がいるのか、と。


 場に響く叫び声と地を蹴る足音が、小十郎の意識を前方に引き寄せる。
 痛みを堪えながら再び身を起こして面を上げれば、そこには伏した竜を背に迎撃者と対峙する魔女の後ろ姿があった。手に携える得物は下段のまま、背後の足元をちらりと見やる。

「政宗、動けるか」
「っ……」

頭上から降り懸かる声に、政宗は歯を食い縛り腕に力を込める。だが、身を起こすどころか地に腕を立てられず、全身に走る激痛が地から離れる事を許さなかった。
一爪は手元にある。しかしそれを握ることさえ叶わない己の有り様に、屈辱が込み上げてくる。

「無理ならいい」

 歪む政宗の顔から言外の返答を得たネアは改めて前方へ向き直る。真正面から突き刺さる怪訝な眼差しが、彼女の緊張と警戒心を高揚させていた。

 単騎で駆けていった者の無事な姿に、小十郎が安堵を得たのも束の間。
 ふと、地へぽたりと落下する点が一滴。ネアがだらりと下げた右の指先から零れたような気がして、自然とそれを目で追った。

 ぱたり、ぽたり。
 地面を叩く小さな粒が僅かに広がる。黒々とした水滴。それだけで、液体の正体を察してしまった。

ネア、お前」
「わたしの事なら気にするな。……それよりも」

 小十郎の懸念にネアの返答が重ねられる。まるで誤魔化すような発言に思わず顔を顰めたが、言い止した彼女が向く先を辿ればすぐに理解した。今この状況下に於いて、追及の暇などありはしないのだと。

 迎撃者と不意に視線を搗ち合わせたネアはしかし、刀を鞘へ納めた三成の様子にほんの僅か、警戒心を解く。敵意はあれども、殺意は既に消失していたのである。

「敗将に用は無い」
「…だそうだ小十郎」

 切り捨てるような辛辣な発言と共に、三成がふいと視線を切る。
この壊滅的な状況下、戦場にいるにも関わらず、標的から外されたのは不幸中の幸いか。
 今が抜け出す機であると判断したネアの双眸は足元――伏す竜へ真っ直ぐに落ちる。発した言葉の先は竜の右目へ。警戒心はあくまでも保ち続けたまま。

「動けるなら、今すぐ政宗を連れて退却しろ」

 中剣を納めた魔女の手が政宗の肩へ伸びる。掴んだ肩口をぐいと浮かせて胸部と地の間にできた空間へ手を捩じ込み、そのまま肩まで差し込むと、男の体を持ち上げるのはほぼ力任せであった。

 退却という単語に、発言者も受聴者も口が苦くなる。敗北という明確な結果を口にするのは辛いものであったし、認めたくないと必死で横振る首を鎮めるのは心中に絶望を招くだけだった。

 ただただ、苦しく腹立たしい。
 右の拳が皮膚を軋ませてぎちりと鳴る。怒りを掌の鋭い痛みで抑える小十郎であったが、視界の半分を覆うように押し付けられた蒼穹に、痛みを堪えながら腕を伸ばすより外に無く。
 主を引き渡され、腕にのし掛かる男一人分の重さに耐えながらも、蒼穹の衣越しにネアの姿を見上げる。逆光で黒く染まった魔女の顔色は読み取り難かった。
―――だが。

 ゆらり、濃紺の髪が靡いて、翻る。
 踵を返そうと足を一歩退いたネアは、そのまま視線を振り薙がせる。敵軍の引き返す様、或いは伊達軍退却の始終を見守るつもりだったが、しかし。
 ぐいと引かれ、痛みの走る手首が彼女前進を阻む。眉根を寄せたネアは怪訝そうな顔で背後を振り返ったが、目を搗ち合わせた男の真摯な眼に、普段ならば容易い手を振り払うという行為も叶わず。

「お前もだ。今一矢報いる暇はねぇ」

 ただその一言が、彼女に息を呑ませる。

 端から見守るだけで済ませるつもりなど毛頭無かった。軽重の程は分からないが、傷を負わせた者に一太刀をくれてやるのは道理であると、彼女は腹の底で考えていた。それは復讐心に近いものだったのかもしれない。
 だが、見抜かれた。それも、あっさりと。



 体を動かせば、随所から悲鳴が上がる。苦悶の声を噛み殺しながら何とか立ち上がった小十郎は主を肩に担ぎ、顔を歪めたまま歩き出す。そんな竜の右目の行動が合図となったのだろう。のろのろと体を起こし始めた伊達軍兵士達が、身を引き摺りながら後に続き歩き出した。

 伊達軍が退却を始める中、ネアは己を追い越していく者達を佇み見詰めていたが、小十郎の鋭い一瞥が催促と化す。それで、思わずばつの悪そうな顔をしてしまった。
 吐き出すは盛大な嘆息。それから未だ後方に佇む三成を睨め付けてから、敗走に向かう一軍の後を追うのだった。










 黒煙が幟の如く立ち上る小田原の城を背に、彼らは北へと進む。その足取りは酷く重く、数は激減していた。
 戦前に見た顔が、いない。そんな現状を嘆く暇など、彼らに有ろう筈が無く。

「小十郎様、筆頭は」
「……大丈夫だ」

 疲弊した顔で問うた部下の目が、先導を続ける竜の右目と数少ない馬の内一頭を忙しなく行き交う。だが、ややあって告げられた返答は、ぽつりと。それきり言葉は無かった。

 最後尾を歩くネアは少なくなってしまった兵士達を度々見渡し、時折会話を聞き拾う。暗澹とした空気の中で啜り泣くような掠れ声が響き、彼らの視線はしきりに主へ向けられていた。無理もないと、嘆息を吐き出しながらネアは思う。

 あれから意識を失った政宗を馬の鞍に沿い乗せて運んでいた。……青年を抱えた際に怪我を見た限りでは、あまり良いとは言えない状態にある。治療はできる限り早急が良いのだが―――そんな主の様子を、今の兵士に告げて何になるだろう。
 明日の光も無く、絶望しか見出せない、この状況下で。
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