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主人公設定
■罅割れた追憶の彼方に 注意事項

・夢主魔術師設定
・Not日本人(外国人)でも日本語流暢。四分の一日本人。
・逆トリップ→トリップの流れ
・【東春を待つ君へ】&【歪を象る現の中で】の夢主達の師匠。
・内容(ネタバレ)は2と3。
・グロテスク表現あり。


相変わらず自己満足で書き殴っております。ので、閲覧後の苦情はお控え下さるととてもありがたいです。

上記を踏まえた上で閲覧をお願い致します。


Hair:blue black
Eye :ice blue 
Height:166cm

詳細…
 ・六百年を誇る魔術師の家系に生まれた三人兄弟の次女。少なくとも、表上ではそういう事になっている。実際は異母兄弟。次女は幼い頃に父親が突然連れてきた経緯があるため、家族は彼女を冷遇。そのため、本来ならば長女が後継者である筈が、訳あって次女の彼女が継いで当主となったため、現在唯一生存している長女から怨恨を持たれている。魔女としての称号は孤高貴女。
 ・冷遇されてきた環境に加え、幼い頃から魔術師として育てられてきたために人として当たり前に持つ感情の一部欠落と思考のずれが少々見られる。
 ・年齢に相応せず落ち着き過ぎてるためかよく老けて見られる。
 ・弟子とはまた違った殺伐さを持つ。
name
Family name
弟弟子(女)
兄弟子(女)
先祖の名前(※紫ルートのみ)

/四. - 進



 地を蹴る馬蹄、その音は数多。響く轟音は怒涛の如く、砂煙を巻き上げながら蒼穹の一軍が疾走する。

 夜明けと共に奥州を発った伊達軍は南進を続けていた。
 目指すは小田原。全ては西方から侵攻する一軍の足並みに制止を掛ける為に。

 疾走する馬に揺られる主の背を暫し前方に捉えていた小十郎であったが、ふと頭上を軽く振り仰ぐ。奥州を発って暫くの間は暗雲が垂れ込めていたが、今は小さな綿雲が薄縹の空に散在していた。平野にいる所為か、普段見る空よりも遠く高いように思える。

(……小田原は晴天か)

 戦場との距離を縮める男の身に走る緊張感は未だ薄い。故に何と無しに天候を確認する余裕もあるのだが、それも程無くして馬蹄の音にも負けず真横から飛ばされた声に思わず意識が引かれた。

「それで、政宗公。わたしの位置は自由で良いのか」

 小十郎の真横を並走していたネアの問いが前方へ投げ掛けられる。彼女の語頭から会話の最中であった事が察せられた。
 空から視線を引き戻した小十郎は主の元へ転じると共に耳を傾ける。すると政宗の隻眼が一瞬腹心を捉えて、不意に搗ち合う。
 ……瞬間、何事かを言いた気に青年が眇めた気がした。

「小十郎のconfidantで良いじゃねぇか」
「……簡単に言ってくれるな、貴公は」

 ぽんと出された返答にネアは若干苦い顔をする。落とした呟きの前に嘆息を落としたが、誰に聞かれる事も無く風と轟音が容易く掻き消していった。

 “懐刀”とは、一時頂戴する肩書きにしては重すぎやしないだろうか、と。
 同行こそするものの、今回ばかりは出張る気など更々無いネアにとっては即肩書きを返上したいところ、隣から制止が掛かる事はほぼ確実。ならば反論するだけ無駄というものだろう。

 若干諦めに近い魔女の前方では、小十郎を視界から外した政宗が両腕を組み遠景を捉える。道を見据えながらも思案を巡らせていた。
 剣客で知られる竜の右目が供を――現在も並走を――許す存在ならば、腕は確かなのだろう。ならば心配など不要である、と。

「……お前は無言か、小十郎」
「当然だ。政宗様が決められた事に俺が口を出すつもりは無い」

 真隣を見やるネアの若干怪訝気な眼差しを見受けながらも、小十郎は低声で淡々と返答を告げる。……彼女ならば双龍の周囲でも巧く立ち回る事ができる。実際に彼女の腕を目にすれば彼の中にそういった確信は当然のように立てられる。戦の経験があるというのだから尚更、心配をせずとも戦を乗り切るに違いない。

 最早彼女の位置を認めてしまった小十郎にネアは思わず呆れ顔を向けたくなる。賛成ならば補足の一つでも言えばいいものを、何故一切口を出さないのか。そんな疑問をふと抱きながら。
 次いで前方を向いたネアが思い出したのは、もう一点の事実。

(そういえば、猿飛は来なかったか)

 おそらく、急に動きを見せ始めたこの情勢の最中に他用で動く余裕が無くなってしまったのだろう。しかし寧ろそれは好都合だと、彼女は内心密かに思っていたのだが。



 余談ではあるが、彼らが南進する最中、遥か遠方――上田の地では、一人の忍が珍しく鼻を啜る姿が目撃されていたそうな。




















 時折休憩を挟みながらも、南下する伊達軍の足取りは上々。駆けること約一昼夜、小田原まではあと半時ほど掛かろうかという頃だった。
 疾駆する馬の鞍上で得物の中剣の具合を再確認していたネアはふと、視界の隅に映り込んだ黒い存在に気付くと面を上方へ向ける。立ち上るは複数の黒柱。遠方で起きているであろう印に、思わず呟きを零す。

「……煙が」
「多いな。城の方面か」
「襲撃の最中と見て間違いないかと」
「戦が始まってるのなら寧ろ好都合だ」

 彼女の呟きに言葉を続ける政宗もまた、隻眼を眇めつつ遠方を見やる。最中に挟まれる小十郎の言葉に軽く首肯をしてみせると、左腰に帯刀した竜の爪の一刀に軽く手を掛ける。
 小田原城は堅固で知られている。ならば大軍と化した豊臣軍が展開するは包囲戦か、或いは城門からの突撃敢行か。全ては状況次第。

 開戦の狼煙を見上げた小十郎が思考を巡らせていた―――その最中。

「混乱に乗じて城の裏手を突破するのが乱入の常套手段だろ」

 最前より聞こえた主の愉しげな声に、反応を見せる者は数人。立ち上る黒煙からさっと視線を下ろした者や、耳を傾けながらも眉を潜める者、反応は様々だった。
 ネアもまた青年の背を無言のまま暫し凝視する。周囲の者と同様、強行突破への懸念を抱きながら。

 それでも、誰もが信じていた。
 一軍を率いる奥州双龍を筆頭に、勝鬨を挙げられるのだと。





「小十郎、先に行く」

 城の前方を見据えていた竜の右目に突如凛とした声が掛かったのは、それから四半時が経過した頃の事だった。
 真横より聞こえた先行の意に、小十郎は思わず声の主を凝視する。手綱を右手にきつく巻きつけ、既に先行の準備を整え終えている事が見て取れた。
 しかし魔女の単独行動を許す気は無く、竜の右目の許可を待つネアの様子に、理由を覚った小十郎は思わず眉を顰める。

「門の破壊か」
「少々突破口を開くだけだ」

 止めておけ、と掛けかけた制止は彼女に届かず。不敵に笑むネアの姿が、手綱を傾けると共に遠ざかり始める。軌道を逸らしたその姿に二度目の制止を告げた小十郎であったが、声は地を叩く馬蹄音によって瞬く間に掻き消されていく。
 あっという間に小さくなる姿に、声はもう届かない。男の胸中に残るものはただ一つ―――単騎で挑む事への不安。化物と称されていた彼女の本領を把握していないだけに、引き止められなかった事に若干後悔の一念を覚えるのだった。



 一軍から離脱した一騎は疾駆する馬を加速させ、本来の道程から巨大な弧を描くように駆け抜ける。手綱を巧妙に手繰り、既に抜いた中剣を下段に構える。腰を鞍から僅かに浮かせ、風の抵抗を最小限に抑えるべく姿勢を前方へ傾けながら前方を見据えていた。

 突入までに時間を掛けたくはない。ならば先駆けて道を開けておけばいい。
 滞り無く侵攻できるよう調整を計るべく単騎で動き出したネアであったが、実のところ竜の右目の制止は確と耳に届いていた。だが、彼女は大人しく聞き従うつもりなど無い。
 大軍と対抗するにあたり大事なのは戦に要する時間である。時が長引けば長引くほど、兵数の少ない伊達軍は不利へ傾く。ならば行く手を阻むものはなるべく排除するべきであると考えていたネアは単騎での行動を選択した。……無論、身勝手な行動である事は自負しているのだが。


 門へ到着するまでの時間は然程掛からなかった。
 門前に上がる土埃と喧騒。血臭が漂い始めており、その一帯に靡く旗は一紋だけではなかった。既に交戦の最中、複数の家紋が入り乱れている。
 その混戦の最中へ、馬を速度も落とさず突入させたネアは躊躇無く中剣を振るった。騎乗からの斬撃の所為か、首は空高く舞い上がる。そのまま弧を描いて落下した頭は、誰かを頭突いて地を叩いた。

「!何だ貴様。北条の者ではな――」

 乱入者に気付いた者が言い終えるよりも早く、男の首を頂戴する。上がる血飛沫を躱し、続け様に数人の首を掻っ攫えば、周囲の目が単騎に向けられた。
 敵と認識すると、敵意を増した者達が見做したものは宣戦布告。放置すれば確実に害を為すであろう者を狩りにかかるのは当然と言えよう。

「乱破だ!!」
「……」

 寄る雑兵に斬撃を、刃を振り翳す者あれば首に一薙ぎを。無情且つ冷酷に、刃を薙ぐ手を休める気は無く。単騎で喧騒の只中を疾走し、駆け抜け様に兵を狩りながら門を目指す。城の敷地と外とを分断する頑丈な塀、その最中に設けられた門は質素な造りではあったが、厚い扉は固く未だ閉ざされたまま。開門にはそれなりの労を要する。
 ……尤も、通常の話だが。

(破壊は容易い)

 わざわざ門を開ける必要は無い。叩き斬ってしまえば良いのだ、と。
 何とも大雑把且つ大胆な方針を打ち出したネアは刃を一振り、それで露を払い落とすや否や、己を狙いに掛かる者を馬上から刎ねた。
 混乱の元凶を討ち取らんと斬りかかる兵こそ居たが、その誰もが返り討ちに遭う。正体不明の兵の乱入に緊張と戦慄が走る中、魔女は前方を阻害する者の命を手早く奪取していった。
 駆け抜け様に舞う頭を一瞥する蒼の双眸には、陰鬱な色を灯して。

 あと少しで辿り着ける。そう、門を目前にしたネアが到達できる確信を抱き、手綱を手前へ引こうとした……その時だった。
 嘶きが突如悲鳴に豹変したかと思えば、視界が馬ごと一転する。身構える間など無く、鞍から投げ出されたネアは身を捻り何とか足からの着地を果たした。だが、彼女が目にしたのは横転した馬が血を撒き散らしながらのたうつ姿だった。刀にやられたか――そう思った矢先、風を切り急接近するものの気配に思わず真横へ跳躍した。
 瞬間、塀にがつりと激突する音を聞けば視線は即座に其方へ向かう。するとどうだろう……水晶にも似た球体が、塀に食い込んでいるではないか。

 あれは何だ。
 そう、異様な光景から疑問と警戒心を募らせたネアは低く身構える。喧騒溢れる戦場をさっと一望したその先に。

「やれ、毛色の異なる鼠か」

 突如降るは、若干しゃがれた渋声。その言葉に反応をぱっと見せたネアは面を上方へ持ち上げる。……そこに。

 白と紅を基とした甲冑や包帯に全身を包み、如何なる仕掛けか浮上する輿に身を落ち着かせたまま宙で停止している。


 前方を向けば、自然と目が搗ち合った。





(不幸、幕開けの一声)
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