名前変換

主人公設定
■罅割れた追憶の彼方に 注意事項

・夢主魔術師設定
・Not日本人(外国人)でも日本語流暢。四分の一日本人。
・逆トリップ→トリップの流れ
・【東春を待つ君へ】&【歪を象る現の中で】の夢主達の師匠。
・内容(ネタバレ)は2と3。
・グロテスク表現あり。


相変わらず自己満足で書き殴っております。ので、閲覧後の苦情はお控え下さるととてもありがたいです。

上記を踏まえた上で閲覧をお願い致します。


Hair:blue black
Eye :ice blue 
Height:166cm

詳細…
 ・六百年を誇る魔術師の家系に生まれた三人兄弟の次女。少なくとも、表上ではそういう事になっている。実際は異母兄弟。次女は幼い頃に父親が突然連れてきた経緯があるため、家族は彼女を冷遇。そのため、本来ならば長女が後継者である筈が、訳あって次女の彼女が継いで当主となったため、現在唯一生存している長女から怨恨を持たれている。魔女としての称号は孤高貴女。
 ・冷遇されてきた環境に加え、幼い頃から魔術師として育てられてきたために人として当たり前に持つ感情の一部欠落と思考のずれが少々見られる。
 ・年齢に相応せず落ち着き過ぎてるためかよく老けて見られる。
 ・弟子とはまた違った殺伐さを持つ。
name
Family name
弟弟子(女)
兄弟子(女)
先祖の名前(※紫ルートのみ)

/二. - 別



 仄かな灯りが部屋をぼんやりと照らす中、慶次とネアの会話は続いていた。陸奥で起きた件と失踪の理由、その他に明かさなければならない事を次々と告げるネアに、慶次の顔から普段の溌溂さが失せていく。落命に繋がる内容もあったのだから、仕方がないと言えば仕方無いのだが。
 顔を強張らせる慶次の様子を眺めていたネアはしかし、ふと思い出した一件に軽い手槌を打った。

「―――ああ、そういえば」
「ん?」
「今思い出した。猿飛とな、約束があったのだ。お前の所為ですっかり忘れていた」

 己の所為にされた事に疑問を抱きながらも、彼女が思い出した内容に慶次は内心首を捻る。接触があった事は知っている。だが、約束の内容とは如何なるものなのか。
 眉を僅かに上げながら話の続きを待つ慶次は、しかし。
 背後で聞こえた床の軋む音と猜疑に満ちた発言を耳にした途端、己の背が粟立つのを感じた。
 声の主は、振り返らずとも分かる。

「猿飛と、約束……?」
「あ、」
「お帰り小十郎」

 障子に向かい座るネアは至極平然とした顔で戻り来た男を迎えたが、迎えられた者はそれに応えなかった。零した復唱と声音からは彼の心中が窺えるような気もしたが、顕著に表れているのはやはり貌であった。

「……片倉さん、顔が怖いよ」
「わざとだ。気にするな」
「えぇー…」

 放つ威圧感は、果たして故意か無意識か。一国主の腹心が他国の忍との約束を見聞き逃す筈も無く、眉間に刻まれた皺はいつにも増して深い。険相を湛える小十郎はネアを睨め据えながら敷居を越え、部屋に踏み込んだ。

「猿飛との約束ってのは何だ」
「約束は約束だが。約束の意味も知らないのか」
「揚げ足を取るな」

 冗談も真顔で吐けば真に受けるのも当然、さらに怪訝を増して顰め面になった小十郎が即答すると、ネアは軽く息を吐いて僅かに眇めた。
 瞬きを数度、それで意識を切り替えたのだろう。双眸に微かな澱みを含ませた魔女がゆるりと開口する。

「記憶が戻った後の報告だ。一応、奴も巻き込まれているからな」

 奴と称した人物との関係を、小十郎は知らないわけではない。一時は共闘に手を組み、梟雄に臨んだという。しかし伊達に身を置く今、かの忍とは敵対状態にある。故に敵地へ足を踏み入れる許可を出す訳にはいかなかった。
 神妙な面持ちでネアの言葉を耳に入れた男はしかし、次に発された意によって思考を掘り下げる事となる。

「それと、利家殿とまつ殿に報告と礼をしてきたいのだが」
「……」

 竜の右目が真剣な顔を向けた、その傍。軽く目を見開いた慶次の口元は微かに緩んでいた。本人が加賀を訪れ健常な姿を見せたならば、あの二人もさぞ安心する事だろう、と。密かに覚えた喜びと安堵に思わず顔を綻ばせた―――その矢先。
 とある単語を耳に入れた途端、彼は思わず身を硬くする。浮かべた喜情もみるみる内に削げてしまった。

「今は止めておけ。―――西国の豊臣に僅かながら動きがあった」
「豊臣?」

 はて、それは西の何処を統治する者であったか。
 先程頭に叩き込んだ地図を思い出しながら、ネアは何気無く慶次の横顔を見やる。……が、青年の面から感じ取ったのは悲観めいた負情だった。恰もそれが禁句であるように、微かな悲愁を浮かべて視線を落とす彼の姿が印象に刷り込まれていく。

「慶次、どうした」
「え?あ、いや…何でもないよ」
「……そうか」

 頭をゆるりと横に振った慶次への追究は、今は無く。普段は快活な青年の珍しい様子を心に留めながら、視線を戻したネアは思い出した地図からその地名を口にする。

「豊臣は確か、大坂だったか」
「ああ。動きが活発になれば、何れ伊達軍も出陣する事になる。……危うい趨勢の中で動けば、道中戦に巻き込まれる可能性もあるだろう」

 確かに、と相槌を打つ者は二。尤も、慶次が抱いた懸念は連れが巻き込まれる可能性に対するものであったし、ネアに至っては戦場に鉢合わせる事への面倒臭さから次第に自粛を考え始めていた。
 今は生憎闘る気も殺る気も無い。故にネアはあっさりと頭を縦に振る。

「―――そうだな。ならば、今は止めておくとしよう」

 旅は無難が良い。余計な面倒事に出くわすなど真っ平御免であると、陸奥の件を振り返る度に心底思う。だが、同時に前田夫妻との再会が遅れる事を惜しく感じた。記憶を取り戻し、再会に支障が無くなったにも拘らず、己の口から結果を説明して二人を安堵させることが出来ないのだから。

「すまない慶次、情勢が落ち着いたら必ず二人に会いに行く」
「分かった。じゃあ俺は一足先に加賀へ行ってるよ。一応利とまつ姉ちゃんには俺から報告しておくから」
「ん、頼んだ」

 慶次越しの報告に申し訳なく思いながらもネアは頷く。青年の面持ちに先程の翳りは窺えず、普段の快活を取り戻していた。その変化に引っ掛かりを覚えたが、追究の言葉を吐くには遅く。
くるりと身を反転させるなり外へ向かい歩き出した慶次の背に、小十郎の声が掛かった。

「泊まっていかないのか」
「ちょいと寄るところができたからさ。そろそろ行くよ」

 片手をひらりと振りながら、慶次は廊下を下りる。遠ざかる藤黄は瞬く間に夜陰に染まったが、一度だけ振り返る姿は確かに捉える事ができた。

「じゃあな、ネア
「道中気を付けてな」

 ああ、と笑う慶次の姿が、今度こそ闇に溶ける。次第に小さくなる足音に耳を傾けながら青年を見送る、その間は短かったように思える。
 廊下と部屋の境まで歩を進めたネアは障子の縁に手を掛けながら見送っていた。その背を眺め、次いで己もまた自室へ戻ろうと一歩を踏み出した、直後。

「―――小十郎」
「ん?」

 慶次が去って行った方角へ視界を固定したまま、彼女は背後の男の名を呟く。……見送った者の姿は既に無く、ただ夜陰が広がるばかりの景色に何を見ているのか。

「お前は、人の背に嫌なものを感じた事はあるか」
「……何か見たのか」

 頭をほんの僅かに横へ傾けたネアの声音は低く、慎重に。人の背、とは今見送ったばかりの青年を指すのだろう。
 ややあって問うた小十郎はゆっくりとした足取りで彼女と並び立ち、同様に夜景を見やる。しかし此処から捉えられるものは無い。既に闇一色となった視界から見出したものは、果たして。
 疑問を抱きながら佇む者の横顔へ目を向けるが、翳る表情は無。しかし視線に気付いたのだろう、目を合わせたネアは微かに苦笑を浮かべる。

「……すまない。気にしないでくれ」

 きっと気の所為だろう、と。
 小十郎の肩を軽く叩き、踵を返したネアの身が明かり灯る部屋の内へ戻りゆく。
 翻る濃紺の髪に翳りを帯びる背。その姿に、一抹の不安を覚えたのは何故か。





(浮かぶ翳、過ぎる不安)
3/15ページ
スキ