罅割れた追憶の彼方に

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主人公設定
■罅割れた追憶の彼方に 注意事項

・夢主魔術師設定
・Not日本人(外国人)でも日本語流暢。四分の一日本人。
・逆トリップ→トリップの流れ
・【東春を待つ君へ】&【歪を象る現の中で】の夢主達の師匠。
・内容(ネタバレ)は2と3。
・グロテスク表現あり。


相変わらず自己満足で書き殴っております。ので、閲覧後の苦情はお控え下さるととてもありがたいです。

上記を踏まえた上で閲覧をお願い致します。


Hair:blue black
Eye :ice blue 
Height:166cm

詳細…
 ・六百年を誇る魔術師の家系に生まれた三人兄弟の次女。少なくとも、表上ではそういう事になっている。実際は異母兄弟。次女は幼い頃に父親が突然連れてきた経緯があるため、家族は彼女を冷遇。そのため、本来ならば長女が後継者である筈が、訳あって次女の彼女が継いで当主となったため、現在唯一生存している長女から怨恨を持たれている。魔女としての称号は孤高貴女。
 ・冷遇されてきた環境に加え、幼い頃から魔術師として育てられてきたために人として当たり前に持つ感情の一部欠落と思考のずれが少々見られる。
 ・年齢に相応せず落ち着き過ぎてるためかよく老けて見られる。
 ・弟子とはまた違った殺伐さを持つ。
name
Family name
弟弟子(女)
兄弟子(女)
先祖の名前(※紫ルートのみ)

「そういえば……まだするべき事があったな」
「ん?」

 行灯に火を入れると同時、ネアがふと思い出したように呟く。……部屋内は暗闇を退けて仄かに明るい。多少距離を開けても、互いの顔ははっきりと認識できるようになった。
 行灯に向かい屈していた片膝をゆっくりと伸ばすと、くるりと身を反転させる。障子へ向かい数歩を踏み出しながら、手前で佇む小十郎を見上げた。
 何処へ行くのか。そう、見下ろしてくる男の言外な問いに対して、彼女の返答もまた言外で。差し向けた指の先に在るのは、夜陰の下りた廊下。

「わたしに宛てられた客室へ戻ろうか」

 ネアの誘いに頷く小十郎はしかし、明かされない彼女の目的に首を捻る。私物少ない部屋に、何があるのだろうか。

ネア、するべき事ってのは」
「なに、今に分かる」

 廊下へ出た者の後を追って歩を進める小十郎だが、すぐに足を止めた魔女の軽く振り仰ぐ姿に、思わず眉を潜めた。
 明かりが仄かな所為か、魔女の顔に差す影は色濃い。
 それは恰も、謀を企む策士の如く。







/十.







「慶次!!」
「!」

 ネアの部屋で待機を続けていた慶次は、突如すぱんと勢いよく開かれた障子の音と共に己の名を呼ばれて飛び上がりそうになった。静寂に音を叩き付けられて、心臓が跳ねる。だが、廊下に立つ人物を目にすれば驚きの色も瞬く間に失せた。
 部屋の主の帰還に、顔が綻ぶ。

―――と。
 そこまでは良かった。

「お帰り―――って、ネア…?何で怒っ…っと!?」
「大人しくしろ。間違えて骨折させたらどうする」

 部屋へ踏み込むや否や、静かな怒気を露にしたネアの鉄拳が青年の頬を掠めた。走る一筋の熱に慶次は慌てて身を退くが、彼女の怒りは一打で治まりそうにもない。さらに飛ぶ一蹴、二拳を避け、最後に躱しきれなかった手刀が額に落とし込まれて、ようやく魔女の攻撃が止まった。

「いでッ!?」
「―――よし」
「何なんだ」

 一人満足気に頷くネアに、廊下で事を傍観していた小十郎の突っ込みが入る。標的を捉えるなり先攻を取る姿勢は、果たして流石と言って良いものか。
 部屋の隅で額を押さえて蹲る青年を横目で確認しながら手を払った魔女の面には、未だ怪訝が残る。

「慶次。お前、記憶を失ったわたしに小十郎との関係を何と説明したか、覚えているか」
「え?ネアの良いひ――とっ……!!」
「誰が良い人だ、誰が」

 返答を言い切る手前に脛へ叩き込まれる、一蹴。
 見事に命中した箇所を思わず押さえ込んで苦悶の声を洩らした慶次に、小十郎は同情の眼差しを向けた。男ならば耐えろと言いたいところ、“化物”と自称する彼女の蹴りならば仕方ないとさえ思える。風来坊の不憫な姿に憐れみさえ覚えていたのだが。
 彼女の怒りは、突如矛先を変えた。

「小十郎、お前も何故訂正しなかった」
「今もする気は無いが」
「……は」

 傍らの男を睨め付けながら問うたネアの表情が、さらりとした返答を耳にした途端に硬直する。停止しかけた思考を何とか働かせて返答の意味を理解しようとするが、思考が正常に巡るその前にもう傍らから問いが投げ込まれた。
 ネアとの距離を一、二歩縮めた慶次の顔が次第に嬉々とした表情へ変化していく。

ネア……?もしかして、記憶が戻ったのか…!?」
「ああ、そうだが」

 先程の苦悶から一転、面に驚喜を滲ませた慶次は思わずネアに詰め寄った。いつの間にか記憶を取り戻し、今度こそ本当の再開に至った二人に今度こそ祝いの言葉をかけようと口を開きかけた。……だが、彼女からの返答は事も無げに、素っ気無く。以外にも冷静且つ無表情な反応に目を瞬かせた慶次は内心首を捻りながら、念の為にしっかりと確認を取る。

「片倉さんと、ちゃんと話せたんだな?」
「うむ。……だが納得がいかん。今の話題をしっかり否定しろ小十郎」
「聞こえなかったのか。俺は否定も訂正もするつもりはねぇ。化物として道を貫き続けるお前に惹かれた部分があるのは確かだからだ」
「…………は」

 さもそれが当然の如く告げる竜の右目の薄情に、ネアの思考が今度こそ停止する。序でに慶次が一時きょとんとしたが、それもすぐに微笑へと変わった。見守る青年の眼差しは温かく、しかし告げられた当人は未だに顔を強張らせたままでいる。何とも奇妙な空気の中で、男の心中の吐露はさらに続く。

「一度目は見送り、二度目は逃がした。それを悔やんでいるのも確かでな。三度目は手放さねぇと、再会を機に決意した」

 静かに告げた小十郎の真剣な眼差しが魔女に注がれる。はっきりと伝えた意思に含まれていたのは、後悔と真摯なる意志。それは以前より潜めていた心情だった。
 死によって揺らぎはしたが、化物と呼ばれながらも一念を貫き生きる魔女の姿は一年を経ても不変。一時見せる凛とした姿は脳裏に鮮明に焼き付き、何よりあの丘陵の上の館で過ごした日々、その中で目にした彼女の表裏ある貌が未だに忘れられなかった。あの別れ際に垣間見た寂寥な表情は、特に。

 そうして振り返った結果に、彼は論を出したのだ。
 次は決してあの手を放しはしないのだと。

 竜の右目の白状が彼女の鼓膜を震わせる。瞠若したネアは暫くの間呆然と立ち尽くしたまま小十郎を見上げていた。紡がれ続けた言葉の所為で衝撃を受けすっかり鈍ってしまった思考を戻すのに数拍、次いで事を理解するのに、更に数拍。胸に込み上げてくる熱を辛うじて鎮静させたネアはようやく表情を崩し、目蓋を掌で覆うと共に重い嘆息を吐き出した。

「……どこまでわたしを錯乱させる気だ、馬鹿め」

 孤高貴女と称され冷徹であった自分が思考をここまで鈍らせるなど滅多な事ではない、と。己の稀少な姿に自嘲と苦味混じりの言葉を吐き出したネアは片手で顔を覆うまま盛大に肩を落とした。
 語尾に付属した悪口が衝いて出たものである事は経験上理解しているが、それでも小十郎は眉を潜める。……いつかのように耳を千切れんばかりに引くべきか。そんな考えが脳裏を掠めた、その矢先。
 ゆっくりと面を上げたネアの未だ揺らぎある双眸が男へ向けられる。

「世間体も気にしないのか、お前。他国…いや、異国の者を取り入れる事に反発する者も有ろうに」
「異国の者だからと、お前を批難の目で見る輩がこれまでに居たのか?」

 小十郎の冷静な返答に、ネアは言葉を詰まらせる。陰口を叩く姿も、そういった眼差しを向ける姿も此処では一切目にした事が無い。それは主が進んで他国の文化を取り込み、既に浸透している所為なのか。
 ……現世で常に批難の目に曝されてきた彼女にとって、この地は酷く生温い。そう感じると共に、安堵を覚えていた自分にようやく気が付いたネアは閉口する。

「既に意は決した。お前はどうだ」

 最後の追究に、返答は無く。目を搗ち合わせたまま黙する事暫し……先に視線を切ったのは、ネアだった。
 ふいと顔を逸らし、視線を適当に投げやりながら、呟くように言葉を零して。

「……どうなっても知らないぞ」

 取り込むからにはそれなりの覚悟はできているのだろう、と。そう考えながらも、心に沸いた情を面に出す事に躊躇あるネアは恰も不貞腐れたように告げ、返答に耳を傾けていた……のだが、いつまで経っても返答は無い。

 長々と落ちる沈黙の間に首を捻ったネアがようやく男を見上げると、まるで奇妙なものを凝視するような目付きの男二人の姿を視界に入れる。若干失礼に思わなくも無いその様子に、思わず眉を顰めた。

「なんだ、二人とも」
ネア、照れてる?」

 ネアの怪訝気な問いに答えたのは、先程から二者のやりとりを見守っていた慶次であった。口元を緩めつつ顔を覗き込むように身体を傾け、問うた声音は弾んでいる気さえする。……青年には、彼女が照れから顔を逸らしたように見えたのだ。

―――勘違いとは恐ろしい。
 その一念と不意に沸いた苛立ちが、彼女の足を思いきり振り被らせた。
 次の瞬間には、青年の脛へ一蹴ががつりと入った。…先程と同様の箇所に叩き込んでしまったのは、決して故意ではない。

「っー…ー!!」
「……そういう事は口にするもんじゃねぇぜ、前田」

 脛を押さえて屈み込んだ慶次が苦悶の声を上げなかったのは、男の意地か。
 蹲る青年を呆れ顔で見下ろす小十郎はしかし、実を言えば彼と同様の勘違いをしていた。……尤も、始めから口に出す気は更々無かったのだが。

 屈する青年から視線を外した小十郎は改めてネアを見下ろした。逸らした顔も返答も半ば投げやり気味ではあったが、己の行く先を委ねてくれた事は密かに嬉しく思う。できるならば、今度は己の意思でこの地に腰を落ち着かせてくれる事を願うばかりなのだが。

 いつか来るのだろうか。
 乱世が終幕を迎え、訪れる平穏な時の中。暖かな陽の当たる軒下で、彼女とゆっくりと話せる日が。

 思案する小十郎の面持ちは自然と穏やかになる。未だ心中が治まらないのだろう、珍しく情を面に出しそっぽを向くネアへそっと手を伸ばした。


―――だが。



――突然だった。
慌しい足音が一つ、部屋に迫り来たのは。

――名を呼べば、蒼の双眸が男を射る。
そこで彼が発するは、確認すべき一点。
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