<div align="center">- 伍章 -</div> 黄海を進むこと早一月。
疎らであった昇山者たちは既に其々の統率を取りつつ黄海の地を歩む。時折道を同じくする数名の剛氏が話し合い、協力し、難儀の途を進み行く。その一団の中に傲隹らの姿があり、
江寧と赤虎もまた健在として一行に紛れていた。一月の最中には当然多少の襲撃があって、それでも犠牲が三十を越えずに済んでいるのは不幸中の幸いと言うべきだろうか。―――それとも。
「―――鵬?」
「ああ。この一団の中に王が居るのは確実だろうな。そうでなきゃ、あれ程の犠牲で済むはずがねぇ」
「飄風の王となるか」
就寝前に話し込むは傲隹を雇い主としている剛氏の婁庚と他の昇山者に雇われた剛氏ら数名。それから其々一行を統率する者たち。傍で聞き耳を立てていた玉秦や鄭玄は、赤虎の鬣を撫でている
江寧を手を招く。何かと首を捻り近付いた少女に顔を近付けると、密やかに言葉を告げた。
「
江寧、鵬雛は誰だと思う?」
「……―――玉秦殿は?」
「私はやはり傲隹殿だと思います」
自信を持ち告げる玉秦の意には、即賛同者となった男が手を挙げる。湛えられた笑みが空気を一時和らげて、頷きながら男が、やはり密やかに言葉を綴る。
「俺も―――一応そう思う」
「……でも、お二方も考えられますね」
「私はそんな器ではありません」
「俺も右に同じく」
自身の王気については否定する二者を見比べて、
江寧は困ったような顔をする。はっきりと断言するが、それでも芳の民ならば誰にでも可能性のある事だというのに。
煮炊きの始末を終えて、
江寧は未だ話し込む傲隹らを見上げる。枝で竈を模し灯りを遮り、それでも微かに洩れる光が話し合う者達の顔に影を差す。彼らの話は
江寧にとって然したる関わりがある訳では無かった。彼女の出生は未だ不明であるが故に関係のない事と思い、視線を下げるとぼんやりとして小さくなりつつある火を眺める。緩む警戒心は同時に睡魔を手招いて、瞼が次第に重みを増していく。
―――刹那、
江寧が凭れ寄り掛かっていた緋色の体躯がピクリと反応を示した。
江寧は咄嗟に手前の弓を手に取る。腰に固定していた矢筒の蓋を取り外して、玉秦と鄭玄もまた冬器の柄を握る。どうした、と困惑しつつ問う者がちらほらと立ち上がって、傲隹らも一旦話を打ち止めた。
「……一匹じゃないな」
鄭玄の呟きは周囲に立つ者達の耳に浸透する。細波のようなざわめきが立ち、一人、また一人と頭上を仰臥する。
江寧は目線のみで傲隹に合図を送ると、すぐに微かな首肯が返された。それを認めるや否や、矢を番えていた手に力を篭めて手前へと引く。瞬時、迷いなく放たれた矢は木々の間を擦り抜けて黒い影へと吸い込まれる。途端、響き渡る断末魔と共に小さな物体がぼとりと落下した。
血が滲み斑となった白い毛並。貫通した矢が鈍く光り、仄かに血臭を漂わせ始める。同族の死を合図としたのか、枝の間から一斉に襲撃を試みた妖魔は冬器を携えた者達によって次々と身を切り裂かれる。最後の一匹を貫くその前に、数段声を低くした傲隹の言葉を聞く。たった三つの言葉が剛氏に焦燥を駆らせる。
「―――蟲だ」
「移動するぞ、急げ!」
随従を伴う者は血相の変わった剛氏の様子に慌てて指示を出す。傲隹もまた荷を引っ手繰ると騎獣の鞍に括り付けて、その背に飛び乗る。
江寧は弓を袈裟懸けするなり近場の荷を胸に抱いて走り出した。赤虎の名を呼ぶと、緋頼は低空を駆けて主の隣に並ぶ。鞍に荷を置き鐙に足を掛けたところで、頭上を轟かせるはけたたましい奇声。影は小物の比ではない。
「近場をうろついていたか……!!」
騎獣を持たない者は必死に足場の悪い地を駆け行く。木々の間を縫い、其々主が進む方角へ足を向かわせていた。
江寧はそれを一瞥し、次いで遥か頭上を振り仰ぐ。闇の中に潜む漆黒の影は旋回しつつ機を窺うようだった。
江寧が左手に弓を握り込んだところで、傲隹が少女の名を呼びかける。反応して振り返った先、赤虎の隣に並ぶ趨虞、その背に騎乗する男の姿。
「
江寧、以前蠱雕を射ち落とした事があると言ったな」
「―――ええ」
「その業、見せてみろ」
予想だにしない傲隹の言葉に、
江寧は思わず眼を見開きまじまじと男を見やる。誰かが倒さねば妖鳥は確実に群衆を追うだろう。痺れを切らせば降下して、群衆の中から数人を啄む。犠牲が出る前にという思いは
江寧もまた皆と同じであったが、言葉から受け取ったものはさも突き放されたような感覚。……つまりは、一人で対峙しろと。
「傲隹、」
問いかける
江寧の言葉を遮るように指示の声が響き渡り、白銀の獣は群衆と共に逸れ行く。それを呆然として目で追い続け、刹那再び奇声を挙げた妖鳥へと視線を薙がせる。今にも近付いて来そうなそれは月を背に陰鬱な影と形を作り上げる。
―――これじゃ、まるで、
弓を握る左手に力が篭もる。鞍に括り付けていた矢筒の蓋を解放しながら、胸内に渦巻くものは緊張と微かな苛立ち。
―――まるで、捨て駒じゃないか。
右腕に手綱を巻きつけ、矢を番えた弓の方角は巨躯の中心へ。闇に慣れ始めた眼が輪郭を捉えて、瞬時引き絞った弦から手が離れた。矢は爆ぜるように黄海の生温い風を突き裂いて的の元へと。闇夜に紛れ、矢は蠱雕の体躯を貫いた。
奇声は悲鳴にも似た音に豹変する。濡羽色の翼が風を打ち宙でのたうち回り、その合間に
江寧はさらにもう一矢を放つ。首元に突き刺さったそれは音を弱化させて、止めの矢を番えた。やがて息は絶えようが此処は黄海……容赦はするべきではない。
そう考え
江寧が弦を引き始めた刹那―――見知らぬ何かが少女ごと、赤虎を恐ろしい程の力で勢い良く弾き飛ばした。
ぶれる視界。一体何が起きたのか理解する暇もなく、辛うじて赤虎からの落下を免れた。だが―――地への落下は止まらない。
「緋頼!」
実際、足元に地は無かった。崖下に蔓延る闇によって地との正確な距離を推し測る事が出来ない。
江寧は意識を飛ばした緋頼の体躯にしがみ付き、投げ出されるまま重力に従い落下の速度を早めていく。
最後に見たものは、次第に落ちゆく蠱雕の輪郭。蠱雕にも勝る巨躯が月を覆い、弱りきった妖魔の翼を引き千切る様子だった。
◇ ◆ ◇
……仄暗い闇の中に身が沈下していく。
鈍い感覚。それでいて仄かな温かさが傍にある。瞼の裏に映る橙色の光は心までをほっとさせて、しかし刻一刻と光は遠ざかる。自身から離れているつもりはない。あれが遠ざかっているのであって、何故と問う心が―――その意識が浮上する。夢である事を自覚した矢先、緋頼ごと投げ飛ばされた記憶が脳裏に過ぎりさっと血の気が引く。騎獣の名を口につつ、
江寧はようやく瞼を薄く開いた。だが……視界は朧がかるばかりで、無意識に手が目元を擦った。
鮮明となる視界を待ち、いざ回復するや否や足元からやってきたものは悪寒戦慄。眼一杯に瞼を押し開けて、瞬きを忘れる。
「―――」
目前――眼と鼻の先。視界の九割に映る妖魔の顔。
江寧は思わず息を詰め喉を引き攣らせる。確実なる死と思われたそれはしかし、幼げな少年の声によって免れた。
「貂燕、近付きすぎだよ」
咎めの声ではない、やんわりとした言葉と声に
江寧は一つ瞬きをする。一体何処からと疑問を抱いたところで、虎にも似た体躯が後退した。人の言葉に耳を傾け聞き入れる筈のない妖魔はだが、確かに少年の言葉を受け入れ身を引かせた。理解が追い付かずに困惑している
江寧は、ようやく周囲を見回して何気なくも言葉を発する。
「此処は……」
「うん、崖から落ちてきた」
それが別段何事もないかの如く告げる少年は、緋色の髪をしていた。
江寧が一時主としていた者の髪も緋色ではあったが、此処まで色濃くはなかった。思わず眉根を寄せて、ふと頭上を見やる。いくら周囲が闇夜とはいえ、見える筈の月の姿が窺えない。その光さえもなく、ふと少年の微かな笑い声が聞こえた。僅かな反響を聞き逃さず、それで此処が窪地である事を知った。
小さく焚かれた灯火の光を受けて少年の顔が照らされる。
江寧はかつて失ってしまった少年の面影を重ね合わせて、途端それを振り切る。―――この少年は、彼ではないのだから。
「……貴方は?」
「僕は―――
北山」
「北山は何故此処に……」
「人探しをしていたんだ。そしたら、倒れていたから」
はっきりとした口調に耳を傾けながら、
江寧は相槌を打つ。ふと自身の騎獣を気に掛けて周囲を見回せば、後方に横たわる紅の体躯を見つけた。腹部のしっかりとした上下にほっと胸を撫で下ろして、
江寧もまた身を起こす。崖の上から投げ出されたというのに怪我一つ無い事は奇跡だと思い、視線を改め少年へ向ける。
「何処か痛む所はない?」
「一応はない……緋頼も無事なようだし」
「じゃあ、良かった」
言って、北山がふわりを笑みを浮かべる。
―――和真。
笑顔の似た少年に、
江寧は複雑な情を顔に滲ませる。結局、慶へ帰還する前に彼を見つけ出す事は出来なかった。甦る思いを胸に抱いて、改め痛感する。少年を、弟のように大切にしていた事を。
身体を一通り動かして然したる異常が無い事を確認した
江寧は、汚れていた裾や袖を払い立ち上がる。傍に一通り纏められた荷の上に置かれた弓を取ると肩に掛けて、主の行動を出立準備と読んだのか赤虎が落としていた頭を擡げた。行くよ、と
江寧の掛け声に反応して体躯を地から起こすと、少女の腕に頭を擦り寄せる。赤虎の鬣を撫でる
江寧の様子を火越しに眺めて、北山は何処か寂しげに眼を細めた。
「戻る?」
「ええ」
頷きはしかと。少年はそう、と一言を返して落ち着かせていた岩から腰を浮かせる。拳二つ分ほどの石を火の中に落とせば、灯火は僅かな火花を散らせて消えゆく。薄暗い中に立つ煙は灰色に浮かび、完全な消火を確認すると
江寧を振り返る。薄闇の中から赤虎と並び近付いてくる少女は北山を見るなり微笑を湛え、少年もまた微笑んだ。
暗がりから抜け出した
江寧は途端生温い風を頬に受けて空を振り仰ぐ。浮かぶ月に眼を細め、次いで今しがた出てきた場所を振り返る。不自然に抉れた崖の壁は洞を思わせて、眼を瞬かせた。―――こんな場所の前に倒れていたのか、と。
江寧の背後では、少年が声を潜めつつ地に言葉を落とす。月の明かりによって出来た影は北山の形を保ち、しかし影の下……地中より返答が響く。
「莫套、影の下に付き従い御守りせよ」
《 しかし、 》
「お前が食い掛からなければ済んだこと。それを棚に上げて反する事は許さない」
《 ……御意 》
渋々と諒承する低声。移動した気配を視線で辿った先、少年の視界に
江寧の驚愕の顔が映る。衝撃を受けたらしき表情から一部始終を見られていたのだと悟ると、思わず誤魔化すように苦笑を零した。
「北山……貴方はまさか」
「今は聞かないで。文句は蓬山に着いたら聞くから……それまで、頑張って」
江寧が追求する間も無く、北山の影より陸吾が姿を現す。小さな猩々緋が背に騎乗すると、獅子は地を強く蹴り上空へと駆け上がる。瞬く間に闇夜へ溶け込んでいく後姿を呆然として仰ぎ見るまま、次いで傍らの赤虎の背を一撫でして、少年が消えていった方角へ軽く拱手の礼をとった。
「―――公、感謝申し上げます」
◇ ◆ ◇
- 暁光 -
夜の黄海、その不毛の地を低空で駆ける一騎。一見獅子にも似た妖魔の背に騎乗する少年は頬に緩やかな風を受けてゆっくりと瞼を落とす。
ゆるりと笑む蓬山の主――峯麒は月を仰臥して、先程の出来事を思い起こす。
その日、峯麒は昇山者が来る前にと最後の黄海行きを決行していた。
女仙にその旨を伝え、陸吾に騎乗すると時を惜しむように宙を駆け蓬山を飛び出す。五山に沿って飛行を続け、北北西に聳え立つ恒山辺りで五山から離れ行く。少年の気分次第で黄海へ行く場所を決める為に、最後と決めた今日は気紛れで陸吾に指示を送っていた。
昼までは五山の麓に足を着けて指令と共に黄海を歩き巡り、さらに夕刻までさらなる指令を下そうと試みたものの、峯麒の傍らに添う陸吾の姿を見た小物は大抵身を翻し駆け去っていく。これでは折伏が出来ないと気を落とした刹那、足元からの密やかな声を受け取る。
「露朔?」
《峯麒、左には行かぬよう》
「どうして?」
《檮兀が居ります》
指令からの忠告は以前にもあった。嘗て陸吾を折伏する前に一度だけ。その際に口を出す事の無かった指令が今、忠告――否、警告を出した。それはやはり陸吾よりも危険なのだろう。そう感じ取った峯麒はしかし、警告を受けなければ足は左へと向かっていた。
「どうしても駄目かな……」
《どうしても、なりません》
指令は頑なにそう断言をする。対し主も粘り問うものの、幾度聞いたところで返って来る答えは全く同じものであった。頭を悩ませ、ふと脳裏に浮かんだ言葉を思い切って口にする。
「向こうに王気を持つ人がいても?」
《それは―――》
渋られる返答。だが……突如影が歪みを見せる。指令の代わりに主を止めようと影より声を発したのは、峯麒の女怪だった。
《峯麒―――喩えそれが本当であっても、御身を危険に曝す事は出来ません》
「乖擁……でも、僕は行きたい」
《いけません》
「行く。今決めた」
瞬時に駆け出した峯麒を唖然として眼で追い、乖擁は地脈より身を現すと主の後を追い駆ける。いくら名を呼びかけたところで返答はなく、普段の頑固さが短所として出たと溜息を吐き出す。こうなった主は力ずくで止める外に無い。そう思い乖擁が手を出しかけた、その刹那―――指令に緊張が駆け抜けた。
『峯麒!!』
「え?」
峯麒はふと頭上を見上げる。月に翳る黒い輪郭。近付きつつある体躯に眼を見開いて、咄嗟に陸吾の名を叫ぶ。峯麒は視界に横切る獅子の姿を捉えて、貂燕は落ちてきた影を背に受け止めた。そのまま緩やかに着地を済ませたところで、貂燕の背に受け止められた体躯がずるりと落ちる。慌てて駆け寄った峯麒は、それが騎獣と人である事を確認してさっと血の気が引く。
「息は……生きてる!?」
『気を失っているだけのようです』
乖擁の答えを聞き、一先ずはほっと胸を撫で下ろす。だが―――実を言えば、指令の緊張の源はこれだけではなかった。
耳を覆いたくなるほどの妖魔の悲鳴。断末魔としか言い様の無いそれは、突如頭上から降り注がれる。驚き様振り仰ぐ峯麒は、深淵の中に巨躯の輪郭を見出す。推測からして蠱雕の倍はあろうか――羽根らしきものは見当たらず、つい先程落ちてきた者同様にその影を色濃くして峯麒に迫り来る。危険を見兼ねた露朔が影より飛び出し、少年の襟元を咥えて乖雍らの元まで一駆けで後退した。
先程まで峯麒の佇んでいた地を抉り降り立つは虎――否、虎に酷似した身体は禍々しい暗黒色の毛並みに覆われ、口の両端に生えた鋭利な牙は血に塗れてさらに禍々しさを増す。毛羽立つ複数の尾は靡くほどに長く、それが幾度も地を打って砂埃を立たせている。
首元から投げ出されるようにして、峯麒の身体は弧を描き乖雍の懐へ収まる。女怪の背後には意識の無い騎獣と……恐らくは昇山者。このままでは皆檮兀の餌食になると、峯麒はこの時初めて危機感を覚えた。
同時―――彼らの忠告を無視した事で現状へ至ってしまった事への後悔と苛立ちを胸中に渦巻かせる。それを今は断ち切って、目前の妖魔をしかと見据えた。
『峯麒、此処は一度―――』
「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、前、行」
乖雍の言葉を遮り、唱えるは九字呪言。微かに聞こえる鳴天鼓の音。主は本気で目の前の妖魔を折伏しようとしているのだと理解して、陸吾以外の指令は次々と影へ溶け込みゆく。乖雍もまた不安ながらも見守り、邪魔をしてはならないと音もなく溶解していった。
峯麒はそれから、数刻の時を対峙に費やしていた。
肩を上下させ静かな呼吸を繰り返しながら、未だ微動だにしない妖魔を睨め据える。念頭に置いた折伏ただ一心のみを考え構えるものの、時折気が逸れて突撃を許してしまう。だが……それでも、峯麒は粘る。
―――何の為に?
ふと峯麒の脳裏に浮上する疑問。ここまで必死になる理由。それを考えようとして、途端拳に力を篭めた。―――いや、考える必要などない。
―――そんなの、決まってる。
天と地へ其々に翳す掌。天の摂理へ組み込む為の束縛。幼いながら真摯とした表情に伴い覇気が一気に膨れ上がる。妖魔もまた負けじと気を昂揚させるも、突如として恐ろしい程の気迫を漂わせる麒麟に対し次第に気が衰えていく。
―――いつか見た背を、思い出したから。
意を決した峯麒に、後悔はなく。
「神勅明勅、天清地清。神君清君、不汚不濁。鬼魅降伏、陰陽和合」
天へ突き出した掌が焼けるように熱い。それでも翳した手は決して下げることなく妖魔を見据え、はっきりと最後の呪言を解き放つ。
「急急如律令」
紅緋の瞳は檮兀を捉え続ける。禍々しい巨躯が僅かに揺らぎ、気を緩めた刹那―――その獣の名を読み取った。脳裏に過ぎる名を胸中に留め、一度引き結ばれた口がゆっくりと開かれる。
「下れ―――莫套」
光に包まれる峯麒の視界。瞬く間の中に、嘗て見た少女の姿が霞んだ気がした。