知りたかったこと
じゃないけど、高校時代片想いしていた相手が所謂“そっち”の人だった。
未知の世界だったから、どんな感じなのだろうか知りたくて、試しに……が、今回見付かったそいつ。
ここで問題になるのは多分、「お前ホモに片想いなんてしてたの?」だと思うんだ。
……偏見だ差別だとかいう議論はここでは省く。
ただ単純に、今、ここで、彼氏にするような話題じゃないことは確かだ。
そう判断したわたしは、ふう、とひとつ息を吐く。
「あれよ、その……古典の教科書に出ていた作品への理解を、深めようと思ってね」
「古典?」
咄嗟に作った嘘ではあるが、それっぽいことが言えた気がする。
古典文学っていきなりとんでもないジャンルあるじゃない?
教科書なのにこんな内容!? っていう作品。
その類に使った、ということにして、この話は終わらせよう。
「へぇー、そんなに興味持ったやつだったんだ? 亜紀凄いな」
幸い雪路はあっさり信じてくれた。
結構ちょろくない? と逆に心配になりつつも、うん、とそれっぽく大きく頷いておく。
まぁ高校生だったし、そういうの好きな時期だったんだよ、と付け加えながら。
正直なところ、今はもう教科書にどんな作品が載ってたかなんか、ひとつも覚えてないんだが。
ふーん、と雪路も何か興味が沸いたのか、漫画をパラパラとめくり出す。
いや、そろそろそれ置こうよ。
確かそんなに露骨な表現はなかったはず(何せわたしが買ったくらいだし)だから、雪路が平気な可能性もある。
でも、あれだ、それを見てるとわたしが当時のことを思い出してツライからやめてくれ。
「これで理解って深まった?」
静かに本を閉じ、雪路がそんな質問を続けて来た。
その質問が瞬時に飲み込めず、はい、とアホみたいな高い声を出してしまった。
理解、と自分で繰り返して、ようやく落とし込む。
何故その話を続けるのだ雪路よ。
まさかこうなるとは思わず、ぅん~~と、と口をちゃんと開けずに呻き声のような呼応になった。
けれどそれほど間も置かず、はた、と気付く。
あー、そうか、別に嘘の話のまま答えなくてもいいんだ、と。
理解したかった、ちょっとでも知りたかったのは事実だし、その漫画を読んだことでわたしは自分の疑問を解決出来たのか、手掛かりを掴めたのか。
それについては、正確なことを答えられる、か。
「……どうだったんだろう」
何となく座り直して、膝を軽く抱えた姿勢になりながら、わたしは呟く。