引き継いだ理由
うん、と頷きながらそれを聞く俺。
そろそろ中間テストだなぁ、と瀧崎が唐突に言い放った。
「そうです、テスト期間に仕事する羽目にならないように、残りの分も頑張って終わらせましょうね!」
「あっ、ハイ」
希咲がそううまーく話を繋げて、瀧崎(と勿論俺にも)へ発破を掛けた。
瀧崎、墓穴に気付いたのか、抑揚のない声で返事をしている。
……これはこれでうまく回るんだな。
「じゃー帰るかぁ。鍵締めんぞ」
窓を閉めて、鞄を持って退室。
希咲を先に帰して、それを見送る俺の後ろで、瀧崎が生徒会室に施錠をした。
その横顔を見ていて、いつも思っていたことがある。
「……瀧崎、生徒会の仕事実はキツい?」
俺の質問に、ん、と瀧崎はきょとんとなった。
いや、瀧崎って帰る頃になると浮かない顔するよな、と俺は常々感じていた。
けれど、それを聞いた瀧崎は真顔になって。
俺を射抜くかのような、真っ直ぐな瞳。
思わず後ずさりしてしまいそうになるほどの強さも同居していた。
吃驚して圧倒されていた俺に、しかし瀧崎は「そーかなぁ」といつもの呑気そうな声で言った。
自分ではそう思っていない、のか。
でも言われてみれば瀧崎、教室ではほぼ寝てるっけ。
俺は次々に疑問を思い浮かべたけど、これ以上瀧崎に何か物を尋ねられる様子ではなかった。
「じゃ俺職員室寄るから。お疲れー」
階段を降りる手前で瀧崎がそう挨拶した。
俺も頷いて、お疲れ、と返す。
靴箱までの廊下で、一度大きく伸びをする。
結構肩凝りしてたりするので、俺も一生懸命やってるんだなとそこで気付く。
嫌いではない疲労感だ。
2020.8.5