知りたかったこと
不思議そうにわたしの顔を覗き込む雪路の顔が、視界の端に見えた。
何で同性なの、という一番シンプルで重要な疑問への答えは、多分得られなかった。
それは同時に、わたしの片想いの相手以外の話だったら、そういう人もいるよね、で済ませていた。
未だにはっきりしていない概念の中で、明確なことと言ったら恐らく、何故自分が選ばれないのか、ってくらい。
それはきっと同性が好きでも異性が好きでも起こり得るんだけど。
……だからか。
1人でぼんやり考えていて、今閃いた。
意味が理解出来ない理屈で、自分が拒絶されたから、あんなにも腹立たしかったんだ。
自分の知らないところで、自分の価値を無下にされたから。
それを当時は言語化出来ずに、でも無意識下では感じ取れていて、その悔しさや理不尽さが、ずっと巣食っていた。
何とか形にしたくてわたしは、気にしたこともないBLコミックまで読んで。
「今思うと、あれは失恋が嫌だったわけじゃないのかも」
「ん?」
律儀にわたしの隣でじっと待っていてくれた雪路のきょとんとした声。
勿論失恋したのはつらかったし、出来ることならそんな思いはしたくなかった。
でもそれ以上に、自分が何に囚われているのかを知りたかった。
姿の見えないものに振り回されている自分を助けたかった。
そんな自分への誠意みたいな動機の方が大きかったようにも感じた。
ってまぁ、それも今だから言えることかも知れないんだけど。
「相手に対する理解よりも、自分に対する愛情だったのかな」
会長を悪者にするつもりは毛頭ない。
でも多分、自分を守るためなら、一発くらい殴るだろう。
うん、と1人で理解して、1人で納得した。
何かすっきりした、と呟きながら顔を上げる。
と、わたしの顔を覗き込んだままだった雪路と目が合った。
わお、と思わず声が出るわたしに、亜紀~、と雪路が笑う。
「俺完全に置いてけぼりなんだけど。何1人で話まとめてんの?」
1ミリも分からん、と続けた雪路に、ごめん、とわたしも笑う。
でも、雪路は説明を求めることはせず、すっと両手を出して、わたしの両頬を挟む。
「そろそろ俺のこと考えて欲しいんだけど」
いい? と確認を取る雪路。
その言葉の意味を理解するとわたしは、うん、と頷いた。
2020.8.10