生誕祭
有佐は何か言葉を探していたような感じで、ふがふが口ごもっていたけれど、最終的には、うん、とだけ頷く。
……心音速いな。
何でそんなドキドキしてんだよこいつ。
なんて思いつつ、こんなことをしていると本当に寝そうになってきた。
暗いからだろうか、それとも僕も知らないうちに緊張感が続いてたんだろうか。
他人にこんな風に触れているなんて、一体いつ振りのことだろうか。
有佐の心音も徐々に落ち着いてきて、妙に心地よいリズムになっていた。
やべぇ萌えるとか何とか漏らしている有佐の声はさておき、何となく気持ちが楽になっていく様子を感じていた。
***
「ハッピバースデー」
「扇テメェ!! 何でシャワー後にそれやる!!?」
シャワーから出てきた直後の有佐の頭に、躊躇いなくペットボトルの水を被せる扇。
有佐は勿論ライブ直後のテンションのままブチ切れてる。
本日のライブは無事閉幕。
有佐もステージに出たらスイッチが切り替わったかのような好パフォーマンスを披露していた。
滞るどころか声を出せば出した分だけ、調子は上がっていった。
凄かったですねー、とスタッフさんからの興奮冷めやらぬお言葉が今も飛び交っている。
「いや、まだ誕生日祝ってなかったなと思い出してな」
真顔でそう律儀そうな態度を取る扇。
ライブは明日もあるけど、誕生日なのは8日の今日だけ。
しかし誕生日祝いなら、さっきまでのライブで何度もしてもらったんだが。
と、有佐も同じことを扇に向かって吠えてたけど、タオルで雑に頭を拭きつつ、まぁ、と怒りを引っ込める。
「ちょっとクールダウンにはなったかも。あと扇のフォローのお陰でめっちゃ楽しかったし」
ありがと、と素直に礼を述べた。
ん、と扇も特に表情も変えずに呼応するけど、多分あれ嬉しがってるな。
お疲れさまでーす、と同じくシャワーを終えた忠雪の声に、じゃあ次、と僕もシャワーへ向かう。
しかしその前に。
「じゃあ司佐には今やっとくわ」
「扇テメェーーーっっ!!!」
きっちり僕にも水被せてきたから、有佐と同時に叫んでしまった。
2019.10.4