生誕祭


 そんな有佐が仮眠とか。

「やっぱ疲れてんじゃねぇの? 慣れない仕事ことすっから」

 一緒に用意されていた一口デザートからプリンを選んで扇がそう呟く。
 そうですかねぇ、と忠雪は不思議そうだ。

 でも、それを聞いて、僕は何となく腑に落ちた。
 ……普段よりも、神経質になっている可能性はあるな。

 仕方ない、そう思って席を立つ。
 様子見てくる、ということで馨に場所を訊ねた。

 楽屋を出て、右手へ進む。
 受付の前を過ぎて見えてくる螺旋階段の向こう。
 使用中のプレートが掛けられたドアを、軽くノックした。
 ぅあい、という間の抜けた声に、入るぞ、と返した。

「っ、司佐?!」

 僕の姿を確認するや否や、がば、と起き上がる有佐。
 仮眠とは言え、ベッドなんてものはここにはないので、ベンチみたいなものの上に何枚が毛布を重ねてあるだけの台に、有佐は寝そべっていた。

「珍しく仮眠取ってるって言うから」

 正直に理由を告げた。
 有佐はベンチに座り直し、んー、と背を丸くして頷く。

「実はライブが近付くにつれて寝付き悪くなってて。昨日もギリギリ」
「……緊張してんの?」

 溜め息を溢す有佐に、僕はストレートに訊いた。
 こうやって訊くと、有佐も素直に答えてくれるからだ。
 勿論返答は「うん」だった。

 ――慣れないことするから。

 全く扇の言うとおりだな。

 でも、もうライブは数時間後には始まるし、むしろもう物販が始まりそうな時間だし。

 何より。
 今日は“祭り”だ。

「ちょっと後ろ向け」

 僕の唐突な一言に、え、ときょとんとなる有佐。
 何で、と言いたげだったけど、強制的に後ろを向かせた。
 僕に背中をまるまる見せるように。

 それを確認すると、僕もベンチの空いているところに腰を落とす。
 そのまま、有佐の背中に、背中合わせで凭れた。

「っ、ファっ!??」

 素っ頓狂な声を上げる有佐。
 えっ何なに何どうしたの、と大声でパニくる有佐に、僕は適当に言い繕う。

「僕もちょっと寝ときたかっただけ。固いベンチよりは充分マシ」

 だからちょっと背中貸せ、と本当に口から勝手に出て来るままに喋った。
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