生誕祭
有佐は見た目派手ではあるけれど、でしゃばりという性質ではない。
そりゃ人前に出なければならないときはちゃんとやるけど、好き好んでという状況は今までなかった。
でも今回は、何故かやる気だから。
「苦手なことやるっていうの分かってて、お前一人に丸投げするわけにはいかないだろ」
だから、僕もやるだけ。
喉の調子は確かに気掛かりだけど、こいつ一人に僕の分までやらすわけにはいかない。
「司佐……」
本当に予想外って言いたげな表情で、有佐が僕を見て呟いた。
悪かったな、柄にもない台詞吐いて。
何か言ってくれれば僕も返せるのに、有佐はこういうとき何故か黙ってしまう。
居心地悪いな、と感じて、僕は至って自然な流れを繕いながら、立ち上がる。
「……フリーズドライでよければ、味噌汁もあるけど」
やっぱり深夜の唐揚げは明日の胃もたれが怖い。
それは事実だったので、何か汁物も入れておこうと思い付くことが出来た。
僕が席を離れ、乾物を収納してある引き出しまで歩いたところで、有佐が反応を返した。
「あっ、じゃあ俺なめこ」
次の唐揚げはやめたようだ。
有佐のリクエストに、ん、と短く応えた。
***
当日の朝は早い。
ライブ開演は18時半からとかだけど、やはり午前中から準備やら微調整やらをしておかなければならない。
そんなわけで今日は8時にはライブハウスに入っていた。
まずは本日のステージ上の配置確認。
客席からマネージャーとスタッフが見え方を確認し、照明やバミリを調整していく。
それから通しリハを簡単に行って、流れの感覚を掴んでおく。
そこまでしているとあっという間に昼時になる。
食事はケータリング、というか事務所社長からの差し入れだった。
「扇がくれたあのマスク結構優秀だな。見くびってた」
「あー、俺もそうだった。
昼食も兼ねて、暫しの休憩時間。
僕はたまたま扇と時間が合ったので、一緒に昼を取っていた。
保湿効果のあるマスクは扇がくれたものだが、正直効果があるとは思えない作りだったんだけど、寝るときにだいぶ役に立ってくれたことを思い出してそう話していた。
扇も同じ経験をしたから、今回くれたようだ。
「で、今日はいいのか、喉? 言うても司佐そんなに割り振ってないけど、ライブしてると勝手に叫んでることもあるからな」
「あるのそんなこと?」