生誕祭
スタジオに着いて、衣装の最終確認を終えて、今日も何曲か練習を兼ねたリハーサル。
どちらかというと、演奏ではなく、僕と有佐のMCのシミュレーションって感じだけど。
このタイミングで叫べるといいんだけど、と扇が何度か、曲と曲の合間で、合図を出す。
有佐も何度も同じ箇所の繰り返しで、何となく合図がなくても声が出せるようになってくる。
「どうしても入れなさそうだったら、俺が何か適当に繋ぐから、曲のタイトル叫んでくれればいいか」
「それやりやすいかもな」
扇の提案に、馨が頷いている。
そういうのだったら僕も使いやすいかも知れない。
そう思って自分に割り振られてる箇所の楽曲を確認した。
これとこれ、ととか呟きつつペンでメモを取っていたんだけど、急に喉の奥で違和感を覚えた。
じわじわと乾燥が広まっていくような、何かオブラートみたいな薄い膜が付いて離れてくれないような嫌な違和感。
案の定、咳込み始める。
おお、と馨がまず気付く。
これ、埃とかが喉に入った時とかによくやるんだ。
喉が乾燥しているせいで、異物を追い出す神経が過剰に働いてしまうらしい。
まぁ水を飲んで喉を潤せば治まるんだけど、まずは喉の気が済むまで、咳は出し切ってしまわないと効果がない。
ごめ、と断りを入れながらちょっと壁を向いて小さくなって咳が落ち着くのを待つ。
やっぱり急に喉使い過ぎたかな……。
大丈夫ですか~、と様子を見ていたスタッフさんが水とタオルを持って来てくれた。
そろそろ落ち着いた頃だったので、深呼吸をし、顔を上げる。
済みません、と何度か頷いて、先に水を飲ませてもらった。
「大丈夫か司佐? しんどいようならMCやめてもいいけど」
馨が気を遣ってそう申し出てくれる。
けれど、僕は首を曖昧に横に振って、平気、と返した。
この咳が出ると、どうしても涙も一緒に出てきてしまう。
スタッフさんが一緒に渡してくれたタオルで、涙とついでに額の汗を拭く。
「ごめん、あと1週間でちゃんと整えてくるよ」
喉元を押さえつつ、ふう、と呼吸を整える。
戻ります、と音響ルームのマネージャーたちに合図を送り、リハを再開させた。
***
保湿効果のあるマスク。
のど飴。
卓上加湿器。
唐揚げ。
……さすがにチョイスが適当過ぎないか?