生誕祭


「曲数も多くないし、この辺だと有佐の煽りのまま次の曲入ったり出来るから、せいぜい3回くらいだよ、お前が声張るの」
「そうだよぉ! たまには喉全開にして叫ぶのもアリだよ! 純粋に俺も聴きたーい」

 指で僕が喋る箇所を示しながら、扇はそう的確なアドバイスをしてくれた。
 的確すぎてこれ以上の駄々の捏ねようがないほどだった。

 確かにそれくらいなら出来るねぇ、と納得してしまうほどに完璧な配分。
 まぁまだ机の上での話だけど。

 有佐の個人的な意見はさておき、ここまでお膳立てされては仕方ない。
 逆に逃げるのはみっともないな。
 分かった、と自分の中で覚悟を決めて答える。
 じゃあ早速ライブハウス行ってみるかー、とマネージャーの声が掛かった。

***

「あー、喉痛い……」
「司佐ってあんまりカラオケも行きませんもんね」

 あんなに唄う司佐は初めて見ましたー、と忠雪が笑っている。

 生誕ライブまで残り1週間。
 僕は発声練習のため、数日おきにカラオケに通っていた。

 一緒に行くメンバーはその日のスケジュールで毎回変わる。
 今日は忠雪が付いてきてくれた。
 忠雪の歌声もあまり馴染みがなかったんだけど、割と綺麗な声で唄うんだな。
 いつも扇の力強い声で慣れているから、同じ楽曲でもイメージががらりと変わる。

「でも以前よりもだいぶ声が通るようになりましたね。コツ掴めましたか?」

 今日はこの後衣装の打ち合わせがあるため、一緒にスタジオへ向かう。
 途中水飲みたいということで、通り掛かったコンビニへ入った。

 そうだねぇ、と飲料水の棚のドアを開け、水のペットボトルを2本掴む。
 一緒に出すよ、と僕の言葉に、有り難うございます、と忠雪は笑う。

「扇が来てくれた時は、結構本格的に稽古付けてくれたわ。3時間くらいで声の出し方すっごく変わるの分かる」
「本当ですか? 僕もレッスンしてもらおうかなぁ」

 レジで小銭を出し、袋ももらわず出ていく。
 1本は忠雪に渡して、出入り口をちょっと避けたところで開栓する。

「忠雪は今の感じでもいいと思うけど。まぁ少なくとも僕は」

 シャウトまではいかないけど、コーラスは入れる忠雪。
 けれど、んー、と忠雪もペットボトルに口を付けながら呟く。

「声域は仕方ないですけど、やっぱりもうちょっと大きな声出したいんですよね。日常生活にも便利になるだろうし」
「……そう?」

 あー、忠雪外見穏やかだから、ちょっとナメて見られたりするんだろうか。
 中身も優しいからな……。

 そういうことなら付けてもらえばいいよ、と会話を続けつつ、また歩き出した。
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