生誕祭
扇のMCは毎回見ているはずなんだけど、自分の段取りの確認とか、場の熱狂とかで記憶はいつでも曖昧なんだよな。
DVDとかでライブそのものは見直したりするけど、扇のMCがそこまでちゃんと収録されているわけでもないし。
というわけで、簡単だけど、有佐と2人して扇からMCのレクチャーを受けた。
基本的には演奏のリード指示、場を盛り上げる声出し、曲の合間に観客を煽る、時々歌の一部を唄わせる、余裕があったらメンバーをお立ち台に引き上げる、など。
はぁー、意外と見るとこ多いな、と、不本意ながらも有佐と同じ感想を抱いていた。
「まぁそりゃあな、ある意味会場全体を一番見られる位置にいるし、俺はマイクだけだし、そういう意味では手隙だから、それくらいは出来るってか」
「ははぁ、確かに」
言われてみれば納得の理由だった。
うっかり感心してしまう。
けれど、扇は腕組みをしながらこうも付け足す。
「俺も最初から出来たわけじゃねぇし、多分1回ぽっとやるだけじゃ結構大変だと思う。だからまぁ、ある程度喋ること決めとくといいだろ。最悪カンペ作って置いとけ」
何度もライブを経験して、最近になってようやく形になった、と扇は言う。
それはそうかもな、と僕は深く頷いた。
カンペかー、と有佐も背凭れに寄り掛かり、暫し天井を見詰めて黙っていた。
それから上体を戻すと、近くにあった紙とペンを手元まで引っ張って来て、何やら書き出す。
「じゃー俺と司佐の台詞だけでもここで決めとこーぜ。キャラ的に……司佐は演奏へのリード指示とか、そういうのの方がいいよね」
そう言いながら、有佐は雑な字で僕と自分の名前を書き、横に矢印を引っ張って役割を決めていく。
えっ、僕もやるの?
「何の意思表示もしてないのに参加決定してるの? ちょっとは話をさせてよ」
俺はとことん煽るぞー、となどと意気揚々と煽り文句を書き出している有佐に、おいこら、と軽く拳で小突いてやった。
しかしそれを聞いてた扇が「当たり前だろ」と怪訝そうな目付きで言ってくる。
「お前ら2人分のライブなんだから、ちったぁ喋れよ。あと単純に司佐の声聴きたいファンごまんといるから」
お前ほんと喋らないからな、と扇がやや呆れたように事実を指摘。
まぁ確かにそれは否定しない。
でも正直出来ることならMCなんかは避けたい僕。
えー、と珍しく駄々を捏ねた。
「何とか見逃して欲しいんだが」
「何故そこまで頑なに拒むか」
扇にそう頼むように下から出てみたが、扇は相変わらず涼しい顔で受け付けてはくれなかった。
有佐の書いたメモを見ながら、ダメ押しの説明。