生誕祭
扇も特に異論はないようだ。
こいつは普段本当にふざけているけれど、仕事、特にライブになると途端に真面目になる。
自分の役割もちゃんと把握してるし、仕事は完璧にこなす。
だから多分、僕もこいつらの後ろで、安心してベース弾けてるんだろうけど。
「うひょー、俺と司佐こんな目立っていいの? 今からテンションやべぇぇ」
「気が早いなー」
とかこんな感じで、概ね立ち位置は異議なく決定する。
それからライブハウスの担当さんが、この場合の機材の位置と、音の反響具合の説明をしてくれた。
そうなるとどの楽曲が適切か、という話になり、曲数も大体まとまった頃、衣装の話に移る。
衣装も原型は既に出来上がっているので、それを見て細部の調整と、サイズの確認。
「MCは扇に頼んでいいか? それとも有佐とかやるか?」
マネージャーがふと話の合間にそう訊いてきた。
やはりいつもマイク持って最前にいる扇が、一番喋りが出来るため、基本MCを任せている。
去年の馨の生誕ライブでも扇にやってもらっていた。
まぁ、僕としてはそうしてくれるなら助かる。
でも、マネージャーの台詞の後半部分、に、本人が食い付く。
「えっ、俺やっていいの? それならちょっとやってみたい」
「ああ。折角2daysだし、1回くらいは変わったことやった方が面白くてよさそうだと」
だそうだ。
そう来たかー、と書類に何やら書き込んでいた馨も顔を上げて反応する。
扇も「いんじゃね」とか軽ーく承諾。
まじで?
そりゃ2日間取ってるから、1日くらいはおふざけでも構わないよな。
仮にも誕生日の特別公演だし。
そっか、でもそれ、いつも以上にマイク振られるってことだよな。
「んー、まぁ有佐だけで成り立つとは考えにくいし、俺はちゃんとサポート入りますんで」
メインは有佐で、と扇が申し出る。
じゃ、初日のMCは有佐な、とマネージャーが確認を取った。
でも。
「MCって何すんの?」
「そっからかよ」
だろうな。
一旦休憩に入ったところで、改めた様子で有佐が扇に大真面目に訊いていた。
勢いで決めたはいいけど、こいつのことだからこんな気はしていた。
お前、具体的な仕事内容も知らずに引き受けるなよ。
とは思ったけど、実際のところ、僕もよく分かってない。