生誕祭
「何でそんな寂しいこと言うんですかーっ!? 司佐見たくて来てくれるファンも大勢いるのに!」
正直ネタを用意してきても、全く喋れない気がしている。
何も伝えたいことがないわけじゃないけど、下手な言葉なんかにしかならなかったら、それこそ申し訳なくて。
だけど、忠雪の言うことも尤もなんだよな。
普段目立たないように演奏している僕にも、有り難いことにファンが付いている。
その人たちにとっては、生誕ライブで僕(と有佐)が目立つことがどれほど大きな意味と価値を持っているのか。
そんなの、他のメンバーの生誕ライブを見ていれば嫌でも理解出来る。
「そうだねぇ……司佐のファンってほぼ男だから、余計盛り上がるんだよね」
異様な感じに、と遠い目をしながら有佐が覇気のない声で呟く。
紫龍はジャンルがヴィジュアルということもあり、ファン層は女性の方が多い。
でも、中には勿論男性もいるし、そしてその大半が僕に付いているんだそうだ。
どういうことなんだよ。
「司佐と有佐の生誕ライブのときだけ、男祭りみたいになりますもんね」
観客、と忠雪が冷静に告げる。
ね、と有佐も渋い顔付きで頷いている。
別に男性ファンがバンドに付いていること自体はとても素晴らしいことだ。
有り難く思っている。
でもメンバー別のこういうライブをやると、その違いが顕著に出る。
「扇のファン層は比率が綺麗ですよね。半々くらいで」
「ああ見えてあいつな~。男のファンも多いよな」
なんだろね、などと呑気に続けている忠雪と有佐。
まぁ正直、ファン層とか、何か喋らなくちゃならないとかそういう話は置いといていい。
僕は単純に、ライブとならば全力で迎えたいだけなんだ。
***
「で、今回の立ち位置はこんな感じ」
マネージャーとライブハウスの担当者とを交え、当日の流れの確認をしていた。
入りの時間、リハの持ち時間、食事やヘアメイク、機材配置などなど、詳細が伝えられていく。
で、その中でもいつもと大きく異なるのが、ステージの立ち位置。
生誕ライブはちょっとだけメンバーの場所が変わる。
やはり誕生日を迎えた当人が一番目立つ場所になければ、ってことで、それを中心とした配置にするため、機材や音響設備も変更する必要がある。
そのため、今回は僕と有佐を中心とした配置で、ライブハウスの方も準備しなければならない。
「扇が後ろの方って新鮮ですねー」
「今回は司佐と有佐のバーターに過ぎないからな」
立ち位置が描かれた用紙を見ながら、忠雪が愉快そうに笑う。