生誕祭
「それはお前個人の要求だろ」
有佐の愚痴を軽く笑って受け流している忠雪の声に紛れ込ませるように、僕はそう棘を刺した。
いいじゃんあれで、使えるものを使えるように使えば。
まぁ確かに、僕の方も雑誌の個人インタビューの時にまとめて撮ったものだけど。
でも一応別々に用意したと思われないようにか、ポスターは有佐の衣装も似たようなものになっていた。
「去年は
そういえば、と忠雪が思い出したように口を開く。
そうだったね、とスマホの画面を落としつつ有佐が呼応している。
あー、という低い声で反応して、去年のライブを思い出した僕は、ちょっと気が重くなる。
まぁ、うちのメンバーで一番人気のある馨だから、というのもあるんだけど、何ていうか、凄いんだ。
ファンの熱気もそうだけど、普通のライブとは違って、勿論主役は誕生日の本人である。
よって、去年は馨が中心になって、ステージは構成されていた。
そう、注目される時間が大幅に増えるのだ。
「馨も普段前に出てこれないポジションだしな。生誕祭だと心置きなくファンの子に絡めるからいいよね」
なんて、有佐は気楽に言ってるけど。
僕が危惧しているのはそこである。
要するに、このライブをやると、問答無用で目立たなければならなくなる。
それが憂鬱で仕方ないわけだ。
「そうですね、いつもは大体
「うんそう。だからさ、数年に一度でも、こういうライブ出来るのほんと楽しい」
ヴォーカルである扇が一番目立つのは当然なのだけど……。
まぁ確かに、ドラムの馨はその場所から動けないから仕方ないけど、僕は言ってもベースだ。
本来はある程度舞台上を自由に動いていい。
でもそこは、リズム隊としての役目と、自分の性格からか、後ろで静かに弾いていたいのである。
だから普段のライブでは、あんまり前にも出て行かない。
それの方が安心感もある。
しかし。
「あっ、だから司佐、ちょっとは何か喋るネタ用意しとこーよ! 司佐いきなりマイク振っても返事しかしないから」
くるん、と突然思い付いたように、有佐が僕を見て言った。
それだよ、やっぱり来たな。
うーん、と曖昧ながらも呼応しつつ、僕は首を斜めに傾げて見せる。
「……確かに生誕ライブ楽しいけど、僕にはあまり振らないで欲しいんだよな」