【パラレル】知らぬが花
「……んー」
華倉に問われ、裕も一度目を瞑って考えている。
それから、あー、と何かを思い出したようにこう言った。
「うちは勝手に物漁る同居人がいるんだわ……そう考えると不安だな」
むう、と眉を顰める裕。
それだけ聞いた華倉は勝手に『猫でも飼ってるのか』程度に考えていた。
結局それが決め手となり、パンフレットは華倉が持って帰ることとなった。
「悪いな、一緒に買ったのに……データコピーとか出来たらいいのにな……」
「気持ちは分かるけど、一介の消費者としては全力で止めるぞ」
はははと笑い、裕は続ける。
「いいよ、またこうやって一緒に見て語り合ってくれれば」
それはとてもナチュラルに交わされた、「次の約束」だった。
取り敢えず連絡先とスマホを出そうとする裕に、華倉は思わず抱き着いた。
裕には何てことのない、よくあるやり取りだったのだろう。
おわっ、と本当に驚く声を出していた。
しかし華倉にとってこれは一大事だった。
初めてプライベートで出来た「友達」だったのだ。
「っ、有り難う……坂下、っ!」
「え? はは〜、大袈裟だなー」
そんな華倉の心境を、裕が知るはずはない。
けれど「滅多にいないマイナー映画監督ファン」という点で見れば、裕にとってもまた嬉しい出会いだった。
連絡先を交換し、その日2人はその場で別れた。
***