【パラレル】知らぬが花


 そんな譲り合いを続けること十数分。
 二度その場を離れた店員を再度呼び、2人は半額ずつ出し合って1冊のパンフレットを購入した。


***

「やべー、まじ熱量やばい」
「構想に8年かけてる……さすがブロウキン」
「は〜〜……あのシーンこんなことになってたんだ」
「でも前作より予算増えてんじゃん」
「50万が多いのか少ないのか相場が分かんねぇ」

 2人はそのまま映画館近くの広場まで出ると、当然のようにベンチに座りパンフレットを広げた。
 それから各々感想を一方的に喋り続けること、30分は経とうとしていた。

 華倉はその合間を見て男性の名前を聞いた。
 彼は坂下裕という大学生だった。
 華倉より後にシアターに入場してきたため、華倉は同じ回を観ていたことに気付かなかった。

 裕も同じようにこの監督の作品が好きらしい。
 今日は講義を受けたその足で映画館へやって来たのだと言う。

「本当にブロウキン監督はこういう演出好きだよなー」
「今回その手の内容じゃないのにやるんだ? ってなったよな」

 本当に同じ映画を観て来たのだろう、驚くほど話が通じた。
 華倉はそのことだけでも喜びのあまりそわそわしていたのだった。

 今まで好きな映画について語り合える相手がいなかった。
 隼人はそもそも映画があまり好きではない。
 他に友人と呼べるような相手はいない。
 それに監督自体がマイナーである。

 そんな華倉の前に、突然現れた裕はもはや奇跡と呼ぶに等しかった。
3/6ページ
スキ