【パラレル】教えた理由


 今も真鬼は休んでいるのか眠っているのかは分からないが、確かに魅耶の肉体の中に潜み、恐らくこの会話も聞いているだろう。

 それでも魅耶は話をやめない。
 動揺する華倉に気付きながらも、取り繕う素振りも見せず淡々と続けた。

「僕にはたまに、数時間の一切の記憶がないときがあります。不定期に幾度も。恐らくというか間違いなくその間、真鬼が表面に現れ僕を完全に沈黙させているのでしょう」

 気付いたらベッドで横になっている。
 一切の記憶がない直後の状況は、いつも同じだった。

 不思議なのは、と魅耶はハーブティーのカップを置き、また視線をやや手元に落とす。

「どこも痛くないんです。勿論傷もない……それこそ本当に掠り傷すら見当たらない。何なら逆にそれまでの疲労まで解消されているかのような、深い眠りから醒めた感覚で起きるんです」

 今までの華倉の話が事実ならば。
 真鬼は魅耶の肉体で相当のダメージを負っているはずであった。

 華倉が付けた刀傷も交戦時にぶつけただろう痣も、疲弊したはずの筋肉も、何1つ症状が見られない。
 怠さなら稀にありますけれどと魅耶は付け加えてみたが、大したフォローにはならなかった。

「だからと言って真鬼が何の影響も受けていないとは考えられません。これは僕の推測でしかありませんが……真鬼は僕の肉体が負った外傷や疲労も全て引き受けている状態なんだと思います。どういう理屈かまでは理解が及びませんが」

 しかし真鬼は人間などとは大きく異なる存在だ。
 一介の人間である魅耶には想像も付かないような業(わざ)も難なくこなすのだろう。
 それこそ人間の持つエネルギーを抜き取るような真似事など。

 推測とは言え魅耶のそんな言葉を聞いても、華倉は何も返せず黙り続ける。
 華倉は勘付いていた。
 魅耶のそれは強ち外れてもいない。

 だとすれば。
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