【パラレル】不帰
しかし砂蔵は肩を上下させて深呼吸を続けながら、へいき、と返すのみ。
実際、平気でないだろうことは予想が付いた。
それでもその場では砂蔵のその言葉を信じるしかなかった。
*
鳳凰は現状、その「能力」の殆どを失った状態だった。
奇襲を受けた際負った傷は粗方治ったのだが、どうやら後遺症とも呼べる症状が出ている。
思い出せないことが多々あるのだ。
記憶と言うものか感情と言うものか明確ではないが、何かがぽっかり抜け落ちている。
恐らくそのせいで能力の殆どが使えないままなのだ。
本来ならば蘇生させることが出来た。
植物であろうと動物であろうと、人間であろうと。
雀の死骸を前に鳳凰は溜め息を溢した。
やはり使えない、と今回もまた落胆する。
こうして小動物の死骸を見付けては能力を取り戻せていないかと期待して試してみるのだが、まだ一度も上手くいっていなかった。
命だけは何とか繋ぎ留めた。
しかし聖獣としての存在意義は、今の鳳凰にはないだろう。
気を落としたまま小屋に戻る。
昨晩の寝床として使った、この辺りの猟師が物置にしている小屋だ。
砂蔵はまだ寝ていたため、鳳凰は声を掛けずに朝の空気を吸いに出ていた。
いつもなら既に砂蔵も身支度が済んでいる頃合いだった。
「砂蔵、」
着替えていたら気まずいため、まずは戸を叩いて声を掛ける。
しかし中からの返答はない。
まだ寝ているのかと不思議に思いつつ戸を開けて中を見る。
「、っ……!?」
砂蔵はいた。
板の間の上に吐かれた血溜まりの中に倒れ込んだ姿で。
鳳凰の顔から一瞬で血の気が引く。
動揺を隠せないながらも、鳳凰は何とか砂蔵の傍へ膝を着いた。
口許に手をかざす。
既に息はなかった。
どういうことなのか、鳳凰には理解が追い付かなかった。
この短時間に一体何があったというのか。
確かに自分が起きた時にはまだ砂蔵は生きていた。
寝息を立てていたのは確認した。