【パラレル】不帰
その女性は200年に一度転生し、その血肉は妖怪たちにとってこの上無い「効力」を持つ。
一口でも食らえば力が底上げされ、寿命も延び、目を見張る強さが手に入る。
そしてその効力は噂によれば1滴の血液でも得られるという。
話には聞いていた。
そういう「呪われた存在」がいることは。
しかし鳳凰はまさか現在までその存在が続いているとは信じていなかった。
神話か、もしくは伝承に過ぎないと。
けれど出逢ってしまった。
その上その存在に命を救われたのだ。
少年は間違いなく現世の憂巫女だった。
その血は妖怪のみならず、聖獣である自分にも効果があった。
自分で付けた傷を保護するように手当てをする少年に対し、鳳凰は1つずつ問い掛け始める。
「憂巫女は女しか生まれないのでは?」
この少年が憂巫女であることは疑いようがないが、どう見ても男の体つきである。
鳳凰の問いに、少年は軽く笑って返す。
「らしいけど、残念ながら俺は男だよ。初めてなんだって、憂巫女が男として転生したのは」
だから生まれてすぐ、死んだことになっている。
少年ははっきりと告げる。
けれど自分を生んだ女性はどうしても処分することが出来ず、見付からないように隠れて育てていたらしい。
「今はもうその母親も亡くなってしまったから、俺は旅をしながら1人で生き延びてるよ」
荷物をまとめ終えた少年が座っていた石から立ち上がった。
「何故私を助けた?」
こんな人気のない森の中で、血を流すなどという危険を冒してまでわざわざ。
鳳凰の探るような視線を受けてもなお、少年は飄々としたまま。
「最初は人が倒れてると思ったんだよ。でもあんた朦朧とした意識の中、俺の匂いに気付いたようだったから」
確かに少年としても博打ではあった。
これで鳳凰が悪い妖怪だったのなら、少年は今頃腕の1本でも持って行かれていただろう。
けれど鳳凰からは邪悪な感じはしなかった。
だから試しに血を与えてみた。
「成り行きで助けたことになっただけかな、正しく言うなら」
だからあまり気にしないでくれと少年は言う。
もう行くのかと鳳凰は訊ねる。