【パラレル】不帰
その少年が「意識は戻ったみたいだけどまだ動かない方がいいぞ」と続けたこと。
どうやら本当に鳳凰は、この謎の少年に命を救われたようだった。
何も返せない鳳凰に対し少年は一言謝りを入れて体に手を伸ばす。
物盗りかと一瞬警戒するが、どうやら少年は鳳凰の負った傷を確認しているらしい。
背中、腕、それから少しだけ体を反転させて、胸部にも触れる。
「盛大にやられたようだな」
横向きの方が思いの外呼吸が楽に出来る。
鳳凰は少年の手が離れていく様子を無意識に追っていたが、改めて深く息を吐くと目蓋を閉じる。
何をしようと言うのだろうか。
少年の意図は読めないままだが、今はまず体力を取り戻すことが先決だった鳳凰はそのまま暫くじっとしているつもりだった。
けれど、再度少年に呼び掛けられる。
「口開けて、これ飲んでみて」
少年の言葉に、初めは水のことかと思った。
それとも人間が飲むような漢方薬でも寄越したのか。
鳳凰は効果があるとは思えなかったが、言われるままに口を開けた。
下手に無視しても何をされるか分かったものじゃない。
普段なら人間など相手にもならないが、今はまだ生死の境にいるのは間違いない。
それにこの少年はこちらを殺すつもりもないだろうからと鳳凰はそこまで読んで、言うとおりにすることを選んだ。
しかし口の中に落ちてきたのは薬のようなものではなかった。
水ともまた違う、もっと粘り気のある重たい液体だ。
妙な味がする。
何だと訝しく思いうっすらと目を開く。
見えたのは自分の手に切り傷を付けて、その血を飲ませている少年。
「――!!」
そこでようやくこの少年の正体に気付いた。
それと同時に、鳳凰は今までの怠さや痛みなどが嘘のように勢いよく起き上がった。
「お前……!」
「効いた? 良かった」
余りの出来事に青ざめる鳳凰とは裏腹に、少年は安堵したように笑って見せた。
鳳凰は少年の正体が分かっても尚、この状況が信じられずにいた。
いや、この少年の正体が判明したからこそ、自分が受けた「施し」が受け入れられなかったのだ。
*
憂巫女と呼ばれる人間が存在する。