愛し、背の君。

 砂蔵は、そんなことを考えていたのだろうか。
 だから、道連れの相手に、自分を選んだのだろうか。
 人間ではない、それよりももっと長い間生き続ける「聖獣」の自分を。

「……鳳凰さん、僕はね、美しさには多少の毒って必要だと思ってるんだよね」

 鳳凰の独白のような語りが途切れ、暫くした後、ふと浅岡が喋り出す。
 ん、と意表を突かれた声を出し、顔を上げる鳳凰。

 浅岡はチューハイの空き缶を丁寧に潰しながら、やや口元に笑みを作って続けた。

「ただピカピカしてるだけの輝きって、何か胡散臭いなぁって思ってて。屋台で売ってる女児向けの指輪みたいな。あれはあれで必要だけど、美しいかどうかって言ったら、違うと思ってる」

 綺麗だけど、惹かれない。
 何て言うか、中身がなくて。
 浅岡のその言葉に、鳳凰は同意して見せる。

「美しさって、綺麗の他にも色々混ざってて、初めて成り立つよね。鋭さとか怖さとか。重たさとか、底知れない不気味さもね、ホラーでは重要だったりするんだよね」

 薔薇には棘があるような、単純に理解出来るものではないから、興味を抱く。

「薔薇だったら例えば、自分の指を怪我しないように触れるにはどうするかとか、この鮮やかな色味を保つには何が必要かとか、そういうことをしていくうちに、薔薇に対して愛着と好意が湧くじゃん?」

 これがもし、タンポポなどと同様に、棘の無い状態だったら、薔薇にはこれほどの美しさは感じられないだろう。
 そういうのでもいいって言う人も勿論いる、けれど僕の場合は魅力的じゃないな、と浅岡は言う。

「怖いもの見たさみたいな、人間の天邪鬼な心理が、勝手に価値とか呪いとかを作り出してる。そういうところが面白くて好きなんだよなぁー」

 ははは、と浅岡がそう、笑って締めた。
 浅岡らしい内容だな、とは思えたが、鳳凰にはいまいち理解が追い付かなかった。

 けれど、そんな表現でも、考え方が変わる。

 砂蔵自身が「呪い」なのだとすれば、鳳凰に呪いを掛けることは、至極当然だった。
 そうして、その呪いを他に気付かせ、知らせ、そうすれば可能性も増える。

 この呪いを「解く」かも知れない、一縷の望み。

「……我の想いも、無駄ではなかったのだな」
「うん。僕はそうだと思うな。素敵な話だった~」

 好きな人がいるっていいねぇ、とアルコールが回った赤い頬でにこにこ笑う浅岡。
 そんな浅岡に、鳳凰は自然に、そうだな、と答えていた。

 愛し背の君。
 貴方が我に掛けた呪いも、解けてしまう日が来たのかも知れない。


2019.5.7
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