必要条件


 一歩出しただけの足が止まった。
 魅耶はゆっくりと背後を確認し、それから足早に自宅から1つ目の曲がり角まで移動した。

 そこで止まると声のした方へと静かに視線を向ける。
 真鬼がいた。
 昨晩見た夢と同じ顔の、同じ姿のその不審者がいた。

 しかし今は朝、陽の出ている時間帯。
 魅耶は起きている。
 そして何より……。

「浮い、てる……?」

 魅耶は真鬼の姿を上から下まで一往復して、ぽつりと漏らす。
 その大きな体躯は、少しだけ宙に浮いている。
 訳が分からず困惑する魅耶に対し、真鬼は深い溜め息を吐いた。

『なんてザマだ。これが俺の本体なのか……』

 この子供は本当に何も分かっていないらしい。
 自分が鬼神の転生者であることも、その鬼神の「土台ベース」であることも。

 どうしてこんな子供に、と真鬼が憎たらしさを込めた視線を魅耶に投げる。
 魅耶は魅耶で何か考えているのか、夢じゃない、でも触れないなどと呟いている。

 そう、魅耶から触れようとしても、その手には何の感触もしないのだった。

 昨晩は確かに真鬼の手は魅耶の頭を掴んでいた。
 けれど。

 真鬼は自分の腕を何度もすり抜ける魅耶の手を見ながら思う。
 あれも、掴んでいた、と思い込んでいるだけなのではないか……。

「魅耶じゃん。何してんの?」

 たたた、という軽快な足音がするなと思った直後、そんな声が魅耶に掛けられる。
 一緒にそちらを見た瞬間、真鬼の表情が一変する。

「か、華倉かぐらっ……さん、」

 魅耶は少しどもりながらその名を呼んで、あわあわと手を動かす。
 確かに端から見ればここには1人で壁に手を振っている魅耶しかいないのだ。

 そんな魅耶に華倉はいつも通り明るく笑って挨拶をして続けた。

「やだな改まって。今まで通り普通に呼んでよ」
「え、っ……あ、うん……」

 それはそうだけど、と魅耶は視線を外して華倉に返す。

 そんな2人のやり取りを、真鬼は驚きに目を見開いたまま見ていた。
 どういうことだ。

 主にその意識は華倉の方へ向いていた。
 否、外すことが出来なくなっていた。

 脈が早鐘を打つ。
 間違えようのない、この「匂い」。
 留まることのない噎せ返る殺気。

 抑え切れない、この、
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