必要条件
頭を掴む手はそのままに、真鬼は端的に要件を告げる。
『認めたくはないが、俺は今のままでは何も出来ん。せめてお前の体があれば話は変わるが』
真鬼は今、魅耶の力の影響を大きく受けている。
何とかしてこの子供の体を奪い、中核をこちらに移す必要があった。
『死にたくないだろう? 何も言わずにその体を、こちらに明け渡して貰おうか』
子供である点は、幸いだっただろうか。
成長期をこれからに控える人間の体が手に入れば、自分好みに変化させるにも容易い。
しかし。
魅耶は暫く真鬼をじっと見詰めていたが、ふと何かが切り替わったかのように視線を伏せる。
それからあっさりと真鬼の手を払うように首を動かし、独り言を漏らしながら布団をかぶり直す。
「……とうとうこんな厨二全開な夢を見るまでになったのか……これは流石にダメだ。情けないな」
『な、っ、おい!!』
話は終わってないぞと魅耶に手を伸ばすものの、真鬼のその手は再度薄くなりつつあった。
思い通りに動けないもどかしさに舌打ちする真鬼を気に留めず、魅耶はベッドに横になる。
明日も学校だし寝ようと呟くと、少しも経たないうちに寝息に変わった。
真鬼はやり場のない怒りを拳に込め、ありったけの力で壁を殴りつけた。
しかし手応えは何もなく、ただ少し、空気が揺らいだだけだった。
***
朝食の場で父親にも昨晩の叫び声について聞かれた魅耶は、変な夢を見たと答えていた。
珍しいわねぇ、と首を傾げる母親に魅耶も頷く。
あんなにリアルな夢など今まで見たことがない。
魅耶にとってはそういう意味であった。
今でもたまに過去いじめられた時の記憶を夢に見ることはあるが、一部は欠けていたり、全体がぼやけていたりと、夢であることは明白だった。
しかし昨晩の不審者は違った。
それだけは魅耶にも理解出来ていた。
今朝起きたときは忘れていたが、身支度をするうちに段々思い出して来ていた。
冷たい視線。
威嚇する声。
脅迫じみた物言い。
あれは何だったのだろうと疑問に思いつつ、魅耶は玄関を出る。
今日はまだ水曜日だ。
気乗りしない理由が脳裏を掠めるが、魅耶は鞄を抱え直して学校までの道を歩き出した。
『何処へ行く?』