必要条件
「ぎゃ――――っっっ!!?!」
無理もない、子供にしてみれば真夜中に見知らぬ男が自分に馬乗りになっているのだ。
子供は咄嗟のことにただ大声を上げることしか出来ず、起き上がったはいいものの、ベッドから逃げることは出来なかった。
それから程なくして、ドアの向こうから別の男の声がする。
「何だ
歳の頃は子供――魅耶とそう変わらない、若さよりもまだ幼さが残る男の声。
その声に魅耶は慌てて不審者について訴えようと部屋を見回すが、そこには誰もいなくなっていた。
不思議に思って、急に落ち着きを取り戻す魅耶に対し、ドアが少しだけ開いて再度声が掛かる。
何かあったのかと問う声に、魅耶は首を横に振り、何でもないとだけ返した。
本当のところは魅耶にもまだ理解出来ていない。
けれど訴えようにも人影も、誰かがいた気配すら何もないこの状態では、伝えられるものがなかった。
魅耶は小さく謝って、様子を見に来てくれた兄に礼を述べた。
兄は首を傾げつつ、おやすみと残してドアを閉める。
夢かなと思いながら、寝直そうと掛け布団を掴んだ魅耶の背後から、またあの声がした。
『驚かせるなクソガキが』
むんずと頭を掴まれた魅耶の耳元で響く低い罵り声。
魅耶は再度声を上げそうになったが、今度は咄嗟に手で口を押える。
出来る範囲で振り向くと、先ほどの不審者――真鬼の姿がまた現れていた。
夢じゃないのかと戸惑い、冷や汗を搔き始める魅耶に対し、真鬼もまた歯痒さを覚えて苛立っていた。
この人間の圧に負けたのだ、この自分が。
先程の魅耶の叫び声の威力に、真鬼は耐えることが出来ずにその姿を消し飛ばされていたのだ。
今の真鬼は所謂「思念体」の状態で、真鬼という「個」の部分は意識しかない。
その意識部分ですら、今はこの人間に力が及ばないということ――。
真鬼は無意識に、魅耶の頭を掴む手に力を込めていた。
しかしそれもほぼ意味はないようで、魅耶は恐怖と困惑の表情こそすれ、痛みを覚えるような素振りは見せなかった。
有り得ぬ。
真鬼はそう、現実に否を突き付ける。
頭の片隅で既に理解していたからだ。
この子供が自分の転生者であり、この子供が「本体」であることを。
真鬼は転生を果たしたものの、それは制限のついた不自由なものであった。
『……俺の声は聞こえるな?』
なるべく感情は押し殺し、真鬼は静かに魅耶に話しかける。
魅耶はまだ口に手を当てたまま、それでも首を縦に下ろす。