終われなかった「始まり」

 男の質問に老女は一瞬小首を傾げた。
 今の小僧、と言うと、あの子しかいない。

砂蔵さくらのことですかい? 悪いけどあの子は売り物じゃあないんですよ。あたしが育ててますけれど、下働きでして」

 やだね、と老女は笑う。

 そもそもここは女郎屋である。
 売り物は女だ。
 此処がどういうところかはあの子も知ってますけどもね、と老女は言った。

 客の男はそれでも難しい顔をして、頼むよ、と再度告げる。

「試しに一晩、何なら昼間の一回だけでもいい。一度買わせちゃくれねえか?」

 この通り、と男は食い下がった。

 老女は正直男のこの言動が理解出来なかったが、無下にするのも気が引けた。
 暫し考えて、男に確認を取る。

「無体は強いないかい?」

 売り物ではないにしろ、貴重な男手を失うわけにもいかない。
 老女は慎重な態度で、何かしたら身ぐるみ剥いでその場で追い出すよ、と念を押した。
 頷く男の顔を見た老女は、そうかい、と呟きながらゆっくり立ち上がる。

「なら一度、話くらいはしてみようかね」


 まさかあの子に客を取らせる日が来ようとは。
 老女は心の隅の方で小さく、本当に小さく後ろめたさを覚えた気がした。



2025.03.16
(誰も知ることのない、“彼”の始まり)
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