特別な友達


 自分の身の上を殆ど明かしてないだろう鳳凰相手に対等に付き合いを続け、鳳凰にも気に入られているほどだ。

 そんな彼が鳳凰との交流を楽しみ、近況を尋ねるほど気にかけていることに、もはや疑問を抱く余地はなかった。
 彼には伝えておく義理があるかも知れない、魅耶は考えを改めていた。

「手紙……そうか、でも1日の大半を寝て過ごすくらいしんどいんじゃ、手紙書いても負担になるだけかな」

 返事が欲しいとまでは言わないから、と浅岡は独り言を零す。
 溜めてある分も結構あるし、でも迷惑は掛けたくないし、などとぐるぐる思案し続けている。
 その殆どが口から出ていることに浅岡は恐らく気付いていない。

 前回麒麟が来てから暫く経っている。
 そろそろ顔を見せに総本山を訪れるかも知れなかった。

「……良いんじゃないですかね、書いても」

 魅耶から発せられた言葉に、え、と浅岡は素で吃驚している。
 本当に自分が全部喋っていたことに気付いていないようだ。
 そんな相変わらず抜けている浅岡に薄く微笑みながら魅耶は提案するように言ってみた。

「幸い彼には身の回りの世話をしてくれる相手がいます。自分で読めなくても、その人に読んでもらう分には恐らくそんな大変ではないかと」

 そうなの、と浅岡がずいと前のめりになって訊き返す。

 事実、鳳凰と麒麟が普段どんな風に過ごしているのか魅耶にも分からない。
 けれどあの麒麟のことだ、どんなに少なくとも日に1度は鳳凰の様子を見ているはずである。

 手紙も持ち帰ったその日に読まなくても構わない。
 鳳凰の調子のいい日、浅岡からの手紙の内容を知りたいと思った時に、いつでも開けられるように。

「受け取る分には負担でも迷惑でもないと思います。彼も浅岡さんのことはお気に入りですし、嬉しいと思いますよ」

 魅耶のその言葉に、浅岡ははじめ期待と不安の入り混じった複雑な表情をしていた。
 けれどやはり鳳凰との交流を続けたい気持ちが勝ったのだろう、書く、と意気込みながら誰にともなく宣言した。

 浅岡のこの喜びように水を差したくないし、念の為麒麟にはこのことを伝えておこう。
 何故か小躍りをし始めた浅岡を横目に、魅耶はスケジュール帳の余白に簡単にペンを走らせていた。


2024.7.29
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