鬼を喰う病
親父から聞いた話と、隼人さんがしてくれる話とは、確かに作られた嘘話とは一概には思えない。
それくらいにはリアリティがあった。
いやまぁ、多分全部事実なんだからそれはそうだろうけども。
「タンパク質が多く脂質が少なく、カロリーは他のそれらの半分ほど。タンパクの多いローカロリー食品として重宝される」
淡々と話す隼人さんのその声に感情はなくて、だからこそ怖いのだ。
この人は本当に鬼の存在を知っていて、そんな鬼を狩っては喰っているのだと。
直綴まで着付け終えていた、このまま袈裟を付けたい。
そう思ってようやく隼人さんの方を向いた。
隼人さんはいつの間にかいつも携えているあの日本刀を立てて、両手で掴んでどこか一点を見詰めていた。
何かいるのだろう。
そう思うと俺は喉まで上がってきていた言葉をあっさりと腹に戻す。
法事の時は“要らん奴ら”までどうしても寄って来てしまう。
俺自身はそれらに対抗する術までは持っていないため、こうして、関係ない人の法事のときにも隼人さんが来てくれる。
隼人さんは俺の護衛をしてくれるのだ。
それも隼人さん自ら「俺がやるから」と。
真剣なそして鋭い視線を壁の、恐らくは壁の向こうに来ているのであろう「何か」から逸らさぬまま、隼人さんは続けた。
「ビタミン、鉄分やミネラル……特にリンやカリウムを多く含んでいて、栄養効果も高い。貧血改善と美肌効果なんかもある」
その臨戦態勢でまだ鬼の肉の紹介してくれるん……?
正直カッコいいのにカッコ悪いぞそれ。
でもそれでも俺は口を出せない。
隼人さんに守ってもらう身であるからというのもあるけど、正直、続きを待っていた。
「ビタミン類は野菜や穀物類と一緒に摂るのが効率的だ。一番メジャーなのは鍋だが……すき焼きやしゃぶしゃぶ、カツやオーブン焼きなんかにしても旨いんだ」
喰っているんだ、この人は。
俺たちには見えない、けれど実在する生き物を。
知らない人の方が圧倒的に多い恐怖の対象である化け物を。
こんな、普通に。
「以上がキジ肉の特徴だ。ほんと鶏肉同様に調理すればいいらしいぞ」
「……、は?? 鬼の話じゃねぇの!!??」
警戒態勢を解き、隼人さんがこちらを向いてにっこり笑う。
急にキジ肉なんて言われたものだから、俺は一瞬ぽかんとなってしまった。
えっ、えっ、キジ肉? キジってあの鳥の?? 桃太郎の仲間の一員として有名なあのキジ??
「ちょ、えっ?? どっからキジ肉だった??」
「何だ、聞いてくれてたんじゃん」