混濁
それから、ん、と曖昧な呼応と共に浅海を見る。
瞳は涙で溶けてしまいそうに見えた。
けれど違和感はその奥、中央に収まる色。
普段の裕のものとは異なった虹彩は深い
「……裕?」
溶けて、蕩けて、
そんな感覚が浅海の脳裏を過る。
しかし裕が一度瞬きをすると途端にその違和感は消え去ってしまった。
普段の澄んだ黒い色彩を放つ裕の瞳だった。
ただやはり涙で濡れて、眠たそうに合わない視線のままこちらを見詰めている様子には、普段以上にそそられてしまう。
「ちゃんとくっついてて」
洗濯機に呼ばれた気がしたが浅海は無視して裕を抱える。
そのまま自分も椅子から立ち上がると、何もかもをそのままに寝室へと歩き出す。
立ち上がった拍子に足元まで落ちたズボンも、雑に脚を抜いてその場に放置した。
「あさみ、今日はゴムしないで」
浅海に抱えられたままベッドに運ばれる途中、裕が熱っぽい吐息に混ぜてそう
色々危ないから断りたい浅海だが、裕は頬をこすりつけながら二度三度と頼んでくる。
「ナカにほしい、お願い」
後になって冷静に考えれば全てが可笑しかった。
異変は始まっていたのだ。
しかしこの時にはそんな理性は微塵も残っているはずがなく、浅海は裕を抱え直して「わかった、」と小さく頷いた。
自分も裕も明日は平日だ、無理は出来ないしさせられない。
けれど半端に抑えが利くかどうかも分からない。
頼むから煽ってくれるなよ、と裕の耳元で浅海が独り言のように呟く。
寝室のドアを開けるために一瞬だけ片手を離す浅海の耳に、お返しと言わんばかりに裕がキスをした。
2024.4.16
(浅海さん力持ちですね~)