混濁


 最初のキスは軽く口付けるもの。
 それから回数を経るごとに深いものへと移っていく。

 温かい物を飲んだ直後ということもあっただろう、互いに口の中も舌先も熱く、その気になるのに時間は要らなかった。

 ただ普段と異なり積極的なのは裕の方で、椅子から落ちそうになるのも厭わず浅海の首に腕を回し引っ付きながらキスを続ける。
 少しだけ裕の方へ椅子ごと寄せて、浅海は裕の上体を支えることも頭に入れながら、裕からのキスに応えた。

 すぐに頬も掌も熱を帯びてくる。
 上がる吐息の合間に漏れる苦しそうな、でも充ちた声。

 舌先に吸い付くのをやめず、口端から零れる唾液の一滴すら惜しく、かぶりつくかのように唇同士の愛撫を続けた。

「……、裕……こっち来れる?」

 自分の方へ雪崩れ込みそうな体勢の裕に、一旦口を離して浅海が訊いた。
 自分の膝の上へと誘うと、裕は蕩けた表情のまま頷いて自分から浅海の膝へと乗ってきた。

 より隙間無く密着させて、呼吸すら呑み込むようなキスを再開する。

 違和感よりも快楽がまさっていた。

 ベルトを外そうとしていることに気付いたらしい、裕が少し腰を引くように隙間を作る。
 しかし膝の上は広くはない。
 裕が落ちてしまわないように左手は裕の腰を抱き、浅海は右手だけで裕と自分の分のベルトを外していく。

 口は全く離そうとしない。

 苦しくないか、姿勢はしんどくないかと、息継ぎの僅かな合間で浅海は何度も裕を気遣う。
 その都度裕はぽやんとした上の空な声色で、平気、もっと、と繰り返した。

 それが「異変」だと気付くのは、恐らくもう少し後のことだ。

 しかし変化の兆しだったことを浅海は確かに〝見てい〟た。

「ゆう……、ここじゃ大変だから、ベッド行くぞ」

 浅海もすっかりシャツのボタンを外されて半端に脱がされたところで、一度顔を離して裕に呟く。
 裕は滴り落ちそうなどちらのものとも判断つかない唾液を零さないよう舌先で追い掛け、浅海の顎まで舐めた。
2/3ページ
スキ