曖昧ストライプ


 魅耶の言葉に、え、と反応したのは、真鬼だけではなかった。
 裕も意外そうな声を発し顔を上げる。
 そんな2人の視線を受けたまま魅耶は微笑んで続ける。

「それを華倉さん自身分かっていた。だからこれは、そういうタイプのじゃれ合いなんだろうなと僕は解釈してました」

 ね、とそこでようやく魅耶が華倉を見る。
 華倉も頷いてはいるが、じゃれ合いかどうかは判断を濁した。

 しかし危害を加えられる様子が皆無なのは、昔も今も変わらない。

「まじ?」

 柄にもなく動揺を見せながら裕が浅海に問う。
 浅海はやや落ち着きを欠きながらも一つ溜め息を吐くと、まぁなと答えた。

 嫌いなことは事実だ。
 けれど、排除したいかどうかはまた「別の話」となる。

「切っても切れねぇ関係じじつが変えられなくても、別に好きになれってわけではないからな」

 全て個別に分けて考ええればいい内容なのだ。
 それを浅海は理解して実践していた。
 そのことを華倉も魅耶も、説明されなくても理解していた。

「それに本当に危害を加えようものなら、恐らく榎本くんは結界に弾かれてますよ」

 こんなに殺気全開なのですからと魅耶は言うが、浅海からはしれっと直球の反論が来る。

「どうかな。元々此処俺の縄張りだったろ」

 その言葉に笑ったのは真鬼だ。
 今回最鬼を倒すために、薄蓮はくれんの力を借用した当事者である。

「今も殴ろうと思えば殴れるし」
「危害は加えないけどそれくらいはするんだもんなぁ」

 牽制する浅海に華倉が軽く笑う。

「殴ってるのに危害じゃねぇんだ?」

 殴るってもう加害ではと裕は首を傾げるが、“此処”はそう判断していないらしい。

「やっぱりじゃれ合いですね」

 魅耶が言う。
 手荒なじゃれ方だなと頷く華倉に、浅海がわざとらしく大袈裟な溜め息を吐いてみせた。

「お前も敵意剥き出しならやりやすいんだけどな。寛容過ぎんだよ、お前は」

 そういうとこほんと腹立つ、と浅海は文句を垂れた。
 場の空気は悪くなる様子はなく、逆にあははと軽快な笑いが起こる。

「……成程」

 そんな華倉たちのやり取りを眺めていて、真鬼がふと呟きを笑みと一緒に零す。
 華倉も魅耶も心底穏やかに見えることが真鬼には喜ばしかった。

「確かに、害はないな」

 関係性の奥底、隠れたところにあるのは確かな信頼感だ。


2024.3.26
4/4ページ
スキ