曖昧ストライプ
しかし一口食べて普通に旨いと言葉を零し、しみじみと魅耶を見た。
「苦労したんだなお前……」
「榎本くんも最近頑張ってるとお聞きしましたよ」
魅耶はそう、浅海の反応を探るような視線を返しながらそう告げた。
魅耶の言葉を受け、浅海がちらりと裕を見る。
勿論裕が話したのだろうことは明白だ。
しかし他に何の話をしているのかということを、今この状況になるまで考えたこともなかった。
自分がいないところで、この2人の前で、裕は何の話をしているのだろうか。
「そう言えば榎本も料理に関しては坂下に心配されてたくらいだったよね。頑張ってるんだ?」
「これに答える義務はねぇな」
だからノーコメント、と華倉に対しては驚くほど素っ気なく浅海は返す。
代わりとも取れるタイミングで裕が笑いながら、昨日話した感じだよと教えてくれる。
そんな4人の会話を真鬼は黙って眺めていた真鬼だが、やや間を置いて改まった調子で呟く。
「お前はそこまで華倉を嫌っていたか?」
浅海は視線も合わせず箸だけは動かしつつ、お陰さんでねぇと返した。
「あれ? 真鬼知りませんでした?」
華倉の分の春巻きを取り分け、華倉に渡してから魅耶が意外そうに口を開く。
真鬼とて気付いていなかったわけではない。
ただ自分の記憶と照らし合わせてみても、判断を決め兼ねていた。
「やけに当たりがきついなとは感じていたが……」
そうだったかとしみじみした声色で納得し、しかしそのまま続けて魅耶に問う。
「だとすれば余計に、何故お前がそれを放置しているのかが不思議だな」
それ。
浅海が心の底から華倉を嫌っていること。
現に高校時代から浅海の華倉への当たりは厳しかった。
嫌悪感を隠すこともせず、堂々と不快感を示していた。
30年近く経った今もそうだ。
相変わらず好感は持てずにいるが、裕との繋がりがどうしても切れないため付き合いがある。
そんな回避出来ない理由があるにしても、だ。
魅耶は浅海の態度を咎めない。
本来ならば、魅耶にとって一番許容出来ないものであるはずなのだ。
けれど魅耶はやはり気に留めていない様子で、そうですかと呑気に応える。
「僕にとっては不思議でも何でもないのですが……そうですねぇ、敢えて説明するとしたら、榎本くんは悪意……場合によっては敵意とも呼べる感情を発露してはいますけど、華倉さんを物理的に害そうとは微塵も考えてないからでしょうか」