朝が始まる
けれど今はただ感謝して、とても愛しい。
そんな魅耶のことを魅耶自身があまり気に掛けていないことを、華倉は今も気掛かりだった。
「正直、魅耶が自分のことどう思ってるのかなんて全然分からないから強くは言えない。だからその、俺の我儘を聞き入れると思って」
俺の“好きな人”のことを、魅耶にももっと知ってほしい。
真面目な顔をして華倉はそう告げた。
本当に真剣な眼差しだったせいか、見えないのに、魅耶はその瞳から視線を外せなかった。
事実、今から自分に対して興味を持つなど自発的に出来ることではないだろう。
それでいいと思ってきた、それでうまくいっていたから。
けれど、最愛の人がそう言ってくれるのなら少しは考え方も改められる。
「……本当ですね。ごめんなさい」
魅耶は可笑しく思えて、吹き出すとまではいかないものの自然と笑みを零していた。
華倉が好きになるものは全部知っておきたい。
中にはどうしても理解出来ないものもあるが、それでも把握していたい。
それが自分自身であっても同じことなのは考えるまでもなかった。
逢坂魅耶という個人として逢坂魅耶に興味を持つことは出来なくても。
篠宮華倉という最愛の人が見ている、最愛の人の「最愛」を通して理解するならば、試してみよう。
「華倉さん、顔を」
右手を華倉の方へ近付けながら魅耶が華倉を呼ぶ。
誘われるままに顔を落としていく華倉の頬に、魅耶の手が触れた。
そのまま耳の後ろまで手を滑らせ、魅耶はぐいと自分の方へ引き寄せる。
華倉もすぐに理解して上体が崩れないよう腕に力を入れた。
カチ、という機械音がして、無機質なアラームが鳴り始める。
いつもは魅耶が止めるそのアラームに手を伸ばし、音を切ったのは華倉だ。
暫くその体勢を続け、唇を離した。
「……って今7時? あれ? 華倉さん朝拝……?」
アラームに吃驚して目を丸くする魅耶。
どゆこと、と言わんばかりに眼鏡を探し時間を確認している。
華倉は笑いながら元の場所に仰向けになり、魅耶を見上げて告げる。
「朝拝はもう済ませてて、それから戻って来てたんだよ。魅耶昨日も遅かったから、起こさないように」
アラームより早く目が覚めたのは事実だが、そんなに早過ぎる時間ではなかったらしい。
華倉の気遣いに魅耶はニヤけそうな笑みを浮かべて礼を述べる。
華倉も起き上がると再度魅耶に軽くキスをして、改めて告げる。
「おはよう」
「魅耶、誕生日おめでとう」
2024.3.6