朝が始まる
「今日も魅耶がここにいるなぁと思って」
華倉がそんなことを突然口にする。
眠気はまだ残っているが、そろそろ意識も醒めてきていた。
魅耶にとっては本当に唐突だったので、はい? と素で驚いてしまったのだ。
どういうことだそれは、一体何なのか。
そう、当然のように湧いた疑問を華倉にぶつけようとした。
しかしそれより先に華倉が続きの言葉を贈ってくれる。
「誕生日おめでとう、魅耶」
言われて、あー、と魅耶は抑揚なく呼応した。
そうか誕生日かとカレンダーの日にちを思い出し、そうですねぇとだけ返す。
しかし華倉は話を続けるのか、唇を撫でていた指を一瞬離すと、今度はその指で頬をつまむ。
「毎年言ってるでしょ〜。もうちょっと自分に興味を持ってって」
むにむにと魅耶の頬を揉むようにいじりながら華倉は言う。
しかし魅耶も毎年のことなので、えぇ〜、と同じような受け答えになる。
「僕のことは別に……僕が華倉さんの誕生日を盛大に祝うことは確かに意味があるのですが」
「同じだってば。そこに大差なんかないって」
魅耶くーん、と華倉は諫めるように訴える。
それでも魅耶にとって“自分”とはその程度のものなのだ。
「僕は華倉さんなしでは成立しませんからね……僕はさておき、まずは華倉さんですよ」
ついでくらいでいい、と魅耶は本当に素っ気無く言った。
本心であり、嘘でも何でもない、魅耶にとっての事実だった。
だからか。
魅耶は肩を掴まれそのまま布団へ押され仰向けにされる。
同時に視界には影が現れた。
華倉が魅耶の上に覆い被さるような体勢を取っていた。
「魅耶」
そこから降ってくる華倉の声は真剣な音色を帯びていた。
はい、と圧され気味に、しかししっかりと華倉の目を見返しながら魅耶は応える。
「魅耶は結果はどうあれ、取り敢えずは俺が好きになるものを理解しようとしてくれるじゃん?」
「……はい」
「それと同じ、って言うと厳密には違うんだけど……俺はやっぱり、魅耶自身にも魅耶のこと考えてほしいんだ」
魅耶の生き方は文字通り「華倉中心」だ。
それ以上も以下もない、それでしか生きられないからだ。
華倉にとってそれは重たくも、時には鬱陶しくもあった。