存在清算


 鬼神であるがゆえに無理矢理祀られた。
 可哀想な人間を差し出された。

 その人間は諦めていた。
 その瞳に、何故か、同情してしまって。

「思えば、琴羽に殺されたときに抱いたのは、危機感とやるせなさだった。私は琴羽に自分に似た陰を見ていた。お前なら分かり合えると勝手に期待した。けれど、お前も私を許すはずがなかった。だから、だから殺された時、焦りを抱いた」

 彼女を野放しにしてはいけない。

「真鬼、」

 華倉が差し出されたまま宙で止まっていた真鬼の手を掴んだ。
 真鬼は目を瞑り、独り言のようにつらつらと喋り続ける。

「逝くなら共に。私が一緒に、消滅へ連れて逝こうと、」

 400年。
 400年の時を経てまたまみえた相手。

 けれどこの本懐は遂げられそうにない。

 今度も私は先に逝く。
 今度こそ「次」のない、終わりへ。

「琴羽」

 何かを求めるように真鬼の指先が動く。
 華倉はその指に触れるように顔を近付けるように移動した。

 指先が頬を撫でる。
 真鬼は満足そうに微笑むと、そのまま眠りに落ちてしまった。

「器用な奴……」

 黙って見ていた魅耶だったが、柱に凭れてうまく背中を丸めて眠る真鬼を眺めてそう呟く。
 華倉もそれに曖昧に笑って、静かに手を離して膝に置いてやった。

「……どう思う?」

 漠然とした訊き方だった。
 華倉のそんな問い掛けに、魅耶はお茶を一口飲み、それから返す。

「本人が良しというのなら口出しすべきことはありません。創鬼はともかく、僕と真鬼は憑依転生ですので上手くいくかは更に未知数ですが」
「そっか……」

 魅耶と向かい合うように座り直し、華倉は眉を顰める。

 勿論、真鬼の考えている手段は、華倉も魅耶も生きている間に達成されなければ意味のないことだ。
 まだ時間は掛かる――、それは時間があるとも言い換えられる。

 真鬼はすっかり、篠宮家にとってなくてはならない存在になってしまった。
 いなくなると考えることが、こんなにも物悲しくなるほどに。


2023.8.26
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