存在清算
真鬼の真ん前で止まり、座り込んだ。
何を言えばよかったのか、華倉はそこまできてもまだ考えていた。
今日明日の話ではない、まだあくまで予測の段階で、それ以前の仮説でしかない。
けれど、真鬼は自身の消滅を決めたのだ。
「……さ、いや、創鬼も真鬼も、その監獄に、行くの?」
華倉から問われたのは、真鬼にとっては意外なものだった。
けれど真鬼は曖昧に笑い、さぁ、と返す。
「人間に同化させた後のことは考えていない。魂まで融合を果たせば人間として裁かれ、多くは転生するだろうが……魂が別であるなら、それは神々や閻魔が別途審議する」
今言い切れることと言えば、鬼神と融合したとは言え、魅耶と裕まで監獄に送られることにはならないだろうとだけ。
そこは安心してくれと真鬼は言う。
ならば、ならばどうか真鬼たちも、魅耶と裕と一緒にまた人間として転生して欲しい。
華倉はそう思った。
けれど言葉にはしなかった。
最鬼の復活を阻止するのならば、真鬼も創鬼もこのまま別の方法で処分された方が確実だ。
頭では分かっている。
それでも胸に何かが引っ掛かる。
「……淋しいな」
華倉のその一言は恐らく無意識だった。
華倉本人すら気付かないほどに、本音が勝手に零れ落ちたのだ。
華倉さん、と零す魅耶のやるせない声にも華倉は反応しない。
淋しいの意味も範疇も、独りよがりなものだった。
こちらが勝手にそう感じているだけの何ら価値のないもの。
そんな華倉に手を伸ばし、真鬼は口を開く。
「そう思ってくれるのだな、華倉は」
真鬼のその声に華倉は顔を上げる。
その指先は少しだけ届かない距離を保って、目の前に差し出されている。
「今関わりのある者の中で、私を思い出せるのは200年後の憂巫女だけになる。だのにお前は、そう言ってくれるのか」
このまま生きていても。
誰も残らない。
創鬼もいなくなれば尚のこと、本当に、誰もがいなくなる。
だから。
だから気にせず、消えればいいと考えた。
「お前に惹かれたことは間違いではなかったのだな、憂巫女。生きていて良かった、とは、こういう感情を言うのか」
妖怪であるがゆえに恐れられた。
鬼であるがゆえに責められた。