存在清算
だがヒトとオニが分離状態のままでは、いつまでも欠けた最鬼の影響を受け続ける羽目になる。
「自力で創鬼を解放出来たお前なら恐らく、創鬼を解かし人間の方へ融合させることも可能だ。人間ベースになれれば、最鬼の影響も限りなく小さくなる」
ふ、と真鬼が笑う。
そんなもんかねぇ、と裕はどこか上の空で返事をしていた。
その目蓋が先刻から落ちては開き、落ちては開きを繰り返している。
また眠くなってきたのだろうと華倉は裕に声を掛ける。
「坂下はまた寝て来て。こっちで具体的な話がまとまったら伝えるから」
「……ん~、そうする」
悪ィ、と断りながら立ち上がる裕に付き添うように、華倉も一緒に部屋を出る。
すぐに戻ってくるだろうと見越し、真鬼は話を続けた。
「……私も、似たような手段を取ろうと思う」
真鬼の言葉に、魅耶が視線だけ向ける。
真鬼も自身を解かし、融合しようと言うのだ。
「僕をベースに、ですか」
魅耶の言葉は確認を取るような、それでいて疑問を呈するような言い方にも聞こえた。
真鬼は力なく微笑み、菱人の本懐でもあると言った。
「勿論菱人の真の目的は憂巫女の呪いを解くことだ。鬼神の消滅はそのついででしかない。鬼神を3体葬ることが出来たとしても、そんなもの一時的なものだ」
これは偶然だからだ。
真鬼、創鬼、最鬼が偶然、上位階級の鬼神として長く君臨していただけ。
そこへ憂巫女が供物として差し出されただけ。
鬼神以外にも憂巫女を欲しがる妖怪は山程いる。
鬼神とて例外ではない。
真鬼たち以外の鬼もまだ数多く存在している。
今の上位階級3体がいなくなったところで、まだ「次」の鬼神が現れるだけ。
「憂巫女そのものを絶たなければ、この不毛な呪いは終わらない。篠宮家が安息を得る日は訪れない。それでも、最鬼がいなくなった今は好機と呼べるはずだ」
戻って来ていた華倉が、障子に手を掛けたまま聞いていた。
どこから聞いていたのかは分からない、が、この表情を見るに、だいぶ始めの方から聞いていたはずだ。
真鬼がそんな華倉の眼を捉える。
「私と創鬼を切り離すには、恐らく憂巫女に斬られることが効果的だろう。どのようになるかはまだ見当も付かないが……今のお前と、『鍾海』があれば可能性は期待出来る」
鬼神は先にいなくなる。
だから憂巫女の解放に助力は出来ない。
真鬼はそう告げた。
全部を理解した上で、納得した状態の笑みと共に。
華倉はようやく障子を閉め中へ入ってくる。